【行雲流水】文化通信2020年10月5日付

2020年10月5日

某月某日

 4連休の1日、早朝から関ケ原まで車を飛ばし日帰りで墓参り。昨年同様、岐阜城下へ北上し長良川河畔の「川原町泉屋」へ。郡上と和良川の天然鮎、さらにうるかを塗って照り焼きにした子持ち鮎に頭から齧り付く。今年の鮎はすこぶるウマい。締めは丸鶏と金華ハムからとった上湯に、鰹と昆布のだし、鮎の魚醤と脂などで調整したスープに焼き上げた天日干し鮎のひらきが載る、鮎ラーメン。

某月某日

 食品業界経営者の勉強会に作曲家の三枝成彰さんをお迎えする。三枝さんには、来月より開催される「ギフトブック・キャンペーン」の発起人のお一人として、建築や音楽関係など、非文化人の私にはリーチできない方々を次々とご紹介いただいている。飾らない人柄で、愉しくも目から鱗のお話からは、この日も学びが多い。

 遡ること14世紀半ば、欧州で起こったペスト禍では、70年間で人口の1/3が死亡する。人口減で皮肉にも実質賃金が上昇し消費が増え16世紀の大航海時代の繁栄につながっていく。祈ってもペストに効果がないことから、神よりも現実の人間を尊ぶ風潮が生まれ、イタリアからルネサンス運動が始まる。つまりペスト禍こそが欧州経済と文化の復興をもたらす契機となったのであると。

 そして今日、我々が普段聴くクラシック音楽は、産業革命の前後、18世紀半ばから19世紀末までのたかだか150年間に作曲されたもので、当時の欧州は1日に3度届く郵便や鉄道網が整備されていて、音楽家たちも国境を超えて自由に往来し交流していた。産業革命のバブルが西洋音楽の隆盛をもたらしたというのである。

 さて、このコロナ禍が過ぎ去った後はどんな時代となるのか。

某月某日

 久方ぶりに人形町「きく家」で会食。主人の志賀真二さんの料理と女将の志賀キヱさんが吟味する銘酒のハーモニーが素晴らしい。

 まずは河豚のから揚げを飛騨高山のクラフトビールで。続いて棒寿司は炙り煮穴子と酢〆かます、黒胡麻豆腐、クエの細づくり野菜和えと酒粕煮を。酒肴皿には、ほっくり焼かれた唐墨餅に豆腐もろみ味噌漬け、鰊煮、ウルメイワシとホタルイカの丸干し。酒は、秋田「刈穂 活性純米酒 六舟」、鳥取「鷹勇 吟麗」、福岡「庭のうぐいす ひやおろし」、埼玉「神亀 ひこ孫」。締めに冷・温の手打蕎麦を手繰るころには小社・星野、撃沈。

【文化通信社 社長 山口】