【出版時評】人と出会えないこの頃

2020年7月20日

 若い頃、会社の上司の「特ダネは人の頭の中にある」という言葉が印象に残っている。まだ世間に知れ渡っていない情報は、直接当事者から聞くしかないということだ。昨今のようにネットで多くの情報が急速に広がる時代だからこそ、本当に貴重な情報は「人の頭の中」にしかないことを実感する。

 

 会合の多い出版業界だが、今年春からは多くの会合が中止になり、人々と出会うう機会がめっきり少なくなっている。もちろんメールや電話、この頃はテレビ会議で簡単に顔を合わせることはできるのだが、偶然会った人とのちょっとした立ち話というシチュエーションがない。実はそういう場所こそヒントになる情報を得る絶好の機会なのだ。

 

 これは、目的の本をネットで探して買うのと、何気なく入った書店でたまたま目にした本を買うことの違いにも似ている。どちらも大切な機能だが、予定していなかった出会いは、むしろ出会ったこと自体の印象とともに強く記憶に焼き付けられるように思う。それが、自分にとって忘れられない大切な1冊になったりする。

 

 人との出会いが減ったことで、「特ダネ」はもとより、こうしたコラムのネタを見つけることも難しくなる。そのせいか最近、コロナの感染拡大やそれにまつわる話題が多くなっている。早く自由に皆さんとお会いできることを願っている。

 

【星野】