【出版時評】役割重くなる業界シンクタンク

2020年6月8日

 全国出版協会が設立70周年を迎え年史を刊行した。戦後の混乱期に設立された出版団体のひとつで、その当時の状況については年史に詳しいが、全協といえば出版科学研究所の存在が大きい。

 

 この仕事を始めた頃から、出版統計にはお世話になってきた。出版市場の動きを数字で継続的に追うことで、比較的早い時期から、現在に至る雑誌市場の縮小といった構造変化を見る目を養われた。

 

 個人的な経験はさておき、これだけ継続性と網羅性のある出版統計は世界的にみても、政府統計などを除くとあまり例がないのではないか。

 

 こうした統計が可能だった背景に、日本の取次システムの存在がある。大手2社をはじめとした数社が出版物流通のほとんどを担ってきたため、取次の扱い量からほぼ全体量を推計できるからだ。

 

 出版社、取次、書店で構成する業界団体を持つドイツでは、この団体が業界改革から、社会、政府に働きかけるロビーまで展開して価格拘束や軽減税率なども実現しているが、情報収集分析、政策立案を行う法律家を含めた40人以上の事務局の力がある。

 

 そういう意味で、業界の構造そのものを変えなければならないこの時期に、業界シンクタンクの役割はますます重くなる。これまで以上に公共性を強め、組織の拡充などによって政策立案能力ももつ存在となることを期待したい。

【星野】