【つぶや記】文化通信2020年4月6日付

2020年4月6日

 春は桜。「なんで桜の花はピンクか知っている?」と学生時代に数人から問われたことがある。「桜の下に死体がうまっていてその血が花をピンクする」という答えであった。

 

 梶井基次郎の短編「桜の樹の下には」が元となるハヤリ話であった。たった4頁の散文とも思える中に、桜の話より気になる部分があったはず、今、思い出せない。探すも本が出てこない。

 

 今どきはネット上で読めると思うが、三省堂へ走り、素敵な店員さんセレクトの中から、角川文庫を購入。真っ盛りの花の神秘性を語る5 行の中に「音楽の上手な演奏がきまって、灼熱した生殖の幻覚させる後光が人の心をうたずにはおかない」。

 

 我が音楽漬け時代。いつも演奏後は焦燥感しかなかった。後光がさすときなど来るのか。と気になったのだった。悲しいかな、後光はささずじまいだ。

【田中良子】

 


 

 世間はコロナ一色。当社も自宅勤務開始。ご機嫌な音楽とコーヒーで仕事は快適。ちゃんと料理をし、食卓を囲む暮らしの中で、普段いかにせわしく過ごしていたのかに思い至る。

 

 観光客が去ったベネチアの運河に魚たちが、工場の止まった北京の空に鳥たちが戻ってきたそうだ。人類は大騒ぎしているが、地球は久しぶりの休息に安堵しているかもしれない。

 

 コロナ以降見込まれる、市場と労働の縮小、テレワークの本格的な普及、暮らし中心への価値観の変化を通じ、僕らはローカルでスローでスモールな世界へと向かうだろう。週の半分は田舎や郊外で仲間と農業やモノづくり、半分は都市で社会のために働くというモデルも面白い。

 

 古くて新しい次の時代、より自由で調和した世界は、もうすぐそこまで来ているのかもしれない。

【須藤峻】