【出版時評】取引多様化に向かう出版業界

2020年1月27日

 悠々会の新年会で紀伊國屋書店の高井昌史会長兼社長が、書店と出版社が直接取引することで仕入条件を改善する必要性を指摘したが、これに呼応するようにトーハンの近藤敏貴社長は、金文会の新年互礼会で、書店に直接交渉を積極的に行うよう促した。

 

 イメージするのは、仕入れ部数や取引条件は書店と出版社が直接決めて、その物流や決済を取次が受託するモデルであろう。それは他業界や海外の出版業界では一般的な形である。例えば、ドイツの大手書店は取次の利用率が10~15%程度だが、直接取引で仕入れた商品の物流を取次に委託しているケースも多い。

 

 これまで、取次会社のシステムでは、1商品に複数の取引条件「正味」を設定できないといわれてきた。そのため、出版社と書店が望んでも、特定の書店にだけ他の書店とは違う別条件(正味)で出荷することができなかった。

 

 効率を高めるためには標準化しなければならないが、そうすると多様性は失われる。効率的な流通が難しくなっている現在、多様化に舵を切らざるを得ない。それが、取次経由と直接取引の併存ということになるのであろう。

 

 ビジネスモデルを変えるのは容易ではないし、取引の多様化は比較的平等だった業界に〝切り取り次第〟の競争を持ち込み、弱肉強食の格差を生む可能性もある。ただ今のところよりよい選択肢は見つかっていない。

【星野】