【行雲流水】文化通信2019年11月4日付

2019年11月5日

某月某日

 渋谷の新たなランドマーク、「渋谷スクランブルスクエア」のメディア向け内覧に潜り込む。このビルが着工するはるか前の話だが、当時東急の事業戦略担当部署で隣の渋谷開発チームのブレストに参加していた折のこと。様々なホテルが渋谷に進出するだろうから、ランドマークとなるビルの上層階には老舗の温泉旅館を誘致し、屋上に絶景露天風呂を造るべしと熱く語ったことを思い出す。

 

 露天風呂は実現しなかったが、地上229メートルの、日本では珍しい露天展望施設からの360度パノラマビューは圧巻。開業後は2千円也となる絶景をありがたく味わったが、強化ガラスのフェンス際には高所恐怖症ゆえ近づけない。前立腺がムズムズする。

 

 11階の「TSUTAYA BOOKSTORE」へ。「旅は人をクリエイティブにする」をコンセプトに、「旅」に特化する品揃えだが、ガイドブックなど「旅」そのものではなく、「世界を知る」、「知らない世界を知る」という〝知的好奇心の旅〟をテーマとしていてユニーク。面白い切り口は一見の価値あり。

 

某月某日

 『味の手帖』新年号に掲載する、巻頭対談ホストである牛尾治朗さん、茂木友三郎さん、宮内義彦さんの鼎談で、新装間もないジ・オークラ・トーキョーの「桃花林」へ。好奇心旺盛なお三方のために、開業早々予約したのだが、皆さんすでに何度か、しかも同じ部屋を利用されていると聞いてがっかり。

 

 あえて難しい話をせずそれぞれ身近な話題に誘導するが、来年の話になると、皆さん一致して大変難しい年になると。米中貿易摩擦やブレグジット、国内ではオリンピック後の景気落ち込みや頻発する自然災害など、様々な不安要素が目白押しではある。しかし、牛尾さん曰く、「美味しいものを『美味しいなぁ』と言って食べられる間は平和で明るい世の中。そういう意味でも『味の手帖』は頑張らなくてはいけないよ」と。確かに、美味しいものを食べられるのは平和であるがゆえ、平和だから心から美味しいと感じることができるのだ。我が国の平和のために頑張らねば!?

 

某月某日

 学生時代の旧友たち8人で、赤坂はリトルソウルと呼ばれる路地裏にある「ヌルンジ」へ。ソウルの大衆食堂そのままの味と雰囲気が最近、すこぶる気に入っている。

 

 メビールくださいッチュ・チュセヨ!で、チョレギサラダとチャプチェ、厚焼き海鮮チヂミで一息。続いてチャミスル(焼酎)を追加し、焼きモノを。ここでは肉+キムチ+ニンニク同時焼きがルール。斜めに傾いた石板の下流側にキムチとニンニクを載せ、肉から流れ出る脂を受け止めるという仕掛けなのだ。

 

 まずは牛ハラミとチャドル(牛胸肉)から。これは塩ゴマ油でシンプルに食べよう。続いてマルチョウ(大腸)が一本まるごと登場。トグロの中にニンニクを抱かせて焼けば、脂を滴らせ、頃合いにハサミでカットする。

 

 ここで再びメッチュを追加し、真打、サムギョプサルの出番となる。分厚く切られた美しい豚バラ三枚肉は貫禄たっぷり。キムチの酸味とほっくりしたニンニク、味噌の混然一体を、サンチュとエゴマの葉に包み一口で頬張る。合いの手はサムギョプサルネギとも呼ばれる唐辛子粉を纏った白髪ネギを。

 

 心地よい風渡る秋の夜。チョアヨ!

 

(文化通信社 社長 山口)