【行雲流水】文化通信8月5日付

2019年8月5日

某月某日

 久々の関西出張で大阪・京都へ。

 まずは京阪神エルマガジン社に荒金毅社長を訪ねる。同社発行の『SAVVY』が創刊35周年、『Meets Regional』は30周年と、今や関西随一の老舗食文化情報誌である。荒金社長、「書店の店頭が元気になる企画など、連携できることを考えたい」と。蓄積された人脈と企画力をもってすれば、双方に利のある仕掛けができるはずだ。

 

 夕刻、京都に移動。『味の手帖』のアートディレクター・藤枝リュウジさんの個展に顔を出したあと、丸太町「実伶」に一緒する。

 

 品書きの中から冷やし焼きナス、白ずいき胡麻クリーム、蒸しアワビ肝ソース、鮎、生麩ブルーチーズ、岩牡蠣のフライ、和牛フィレカツを選択。〆は丸唐麺(すっぽんらーめん)と穴子と新生姜の釜ご飯を少しずつ。

 

 カウンター越しに丁寧な仕事ぶりを眺め、女将の行き届いた心配りも心地いい。

 

某月某日

 宿からほど近い「やまもと喫茶」の焼き卵サンドセットで朝食を。京都は珈琲とパンの消費量が全国1位というが、和食文化のど真ん中にあると洋物志向が強くなるのだろうか。ヒトのココロのバランス感覚は面白い。

 

 その足で京都新聞社に山内康敬社長・主筆を訪問。応接の壁一面を彩る見事な紅白梅の綴れ織りに、140年の歴史と矜持を見る。

 

 山内社長、「主要読者層である50 ~70代の男性の購読部数が減少している。これまで毎週日曜日に、本紙の4~5㌻を使って掲載していた『ジュニアタイムズ』面を、今年5月から別刷りにして創刊、日曜朝刊に折り込んでいる。子ども新聞は30~40代の保護者に好評で、兄妹がいれば10年以上の購読につながる」と。デジタルで収益をあげるのは難しいから効果の見えぬコストはかけず、まずは「紙」に注力すると簡潔明瞭である。

 

 「新しいことをやっていかなければいけないが、いざ『やる』となると、長く居た内部の人材ではやり方がわからない。外から来た人は新しい視点で見ることができるが、単に人数を増やせばいいという問題でもないから悩ましい」とも。昨年53歳で就任した若きリーダーの今後の挑戦に期待したい。

 

 ランチは10年ぶりに訪れた「とんかつ山本」でロースカツ定食。不愛想なオヤジも健在。薄くパリっと揚がった衣に包まれた肉はジューシーで脂の臭みが全くなく、旨い。

 

 午後は、「チャート式」で知られる、数研出版の吉井正幸執行役員を訪ねる。

 

 中学時代にお世話になった参考書をめくってみれば今もって変わらぬレイアウトが懐かしい。もう一度学びたいリタイア層の購入も増えているらしいが、学生向けゆえか値付けが安いと感じる。編集制作は、ほぼ自社で完結、スタッフはそれぞれの分野を極めるオタクで、IQはとんでもなく高いらしい。

 

 新築間もない同社ビルを案内してもらう。一階には大正末期のチャート式黎明期から今日までの貴重な実物を見ることができる。また、社員のための茶室や、地下には博物館さながらに化石や鉱物が展示されていて、オーナー企業ならではの遊び心を感じる。

 

 帰路、伊勢丹地下で「はつだ」の牛焼肉弁当を買い込む。甘辛い味付けで香ばしく焼き上げられた肉はクセになる味で、毎度3個ぶら下げて帰っている。しかし、京都は暑い。

文化通信社 社長 山口