【出版時評】引退するときに

2019年3月25日

マリナーズのイチロー選手引退が、日本でのオープン戦最終日に表明というドラマチックな展開だったこともあり、新聞やテレビで大きく報じられた。日本はおろか、大リーグでも抜きんでた活躍をした、報道に値する選手だったことも確かだ。

 

引退というのは、なかなか難しい。はっとさせられるほどあっさりと身を引く人、多くの人に惜しまれつつ去る人、逆にタイミングを逸してしまったりすることもある。

 

アメリカの出版業界では、書店組合ABA(American Booksellers Association)のCEO(最高経営責任者)オーレン・タイカー氏が今年度で引退するという。ABAは独立系書店が加盟する団体で、一時は大手書店チェーンの出店やネット書店の拡大で会員が大幅に減少したが、2009年から9年間会員が増え続けている。

 

タイカー氏は30年間ABA事務局に在籍し、ちょうど09年にCEOに就任。任期中に会員は増加し、この間に会員が集まって研修や討論を行うウィンターインスティテュートなどの教育プログラムを充実させた。

 

ABAの会長は「私たちの多くの店が経験している成長と成功は彼のビジョンとリーダーシップによるものです」とコメントしている。お世辞もあるだろうが、引退表明はこういう言葉で迎えられたいものだ。

(星野渉)