【出版時評】小さいけれど、大きな宣言

2019年4月8日

幻戯書房の正味下げ宣言は、量的に見れば小さいものだ。年間10点ほどの新刊を出す、5人程度の出版社が正味を下げたとしても、取次や書店の多くが恩恵を享受することはないだろう。しかし、出版産業の構造が危機的な状況にある中で、こうした声が上がるのはむしろ当然である。

 

出版流通が、今いる出版人がかつて経験したことのない変化の直中にあることに気づかない人は、もはやいるまい。にもかかわらず、田尻社長が述べるように、業界の中、特に出版社側から具体的な動きが見えてこない。

 

取次システムに依存しすぎたため、といえばそれまでだが、その取次自体が大きく舵を切っているのに、いままでと同じ姿勢でいたら、振り落とされてしまう。むしろ変化の行方を見定めて、自ら踏み切らなければならない局面に来ている。

 

大手取次2社がスタートさせている中期経営計画で、図らずもともに掲げた「本業の復活」は、昔にもどすのではなく、違う形への脱皮宣言に他ならない。そして、もし脱皮できなければ、既存流通の未来もない。

 

デジタル化や海外展開といった道にしても、待っていれば誰かが指し示してくれるわけではない。新たな道は、メーカーである出版社個々が踏み出す以外に拓かれることはない。幻戯書房の小さな宣言は、改めてそのことを感じさせてくれた。

(星野渉)