【出版時評】返品率40%超は「クレージー」

2019年5月1日

トーハンの近藤敏貴社長がドイツの出版流通を視察した印象として、日本の返品率を「クレージー」と言われたことを上げた。ドイツの書店は日本と同様に書籍を返品しているが、それでも返品率は10~15%程度。40%は「クレージー」なのだろう。

 

ドイツで返品率が低いのは、すべての書籍を書店が発注していることや、返品金額を次回仕入に充当し、返金しないことによるが、日本の書店人は一様に「すべて事前発注ができるのか」と驚く。逆に日本の見計らい配本のことを聞き、「悪夢だ」と驚いたドイツの書店人がいた。構造の違いが感覚の違いを生む。

 

これだけ違う仕組みではあるが、日本は出版流通を支えてきた雑誌が激減したことで、ドイツなど諸外国のように書籍で成り立つ出版流通を目指さざるを得ない現状だ。これは出版社や書店にとっても荊の道ではあるが、そこをくぐり抜けることでしか、自立した書籍産業を構築することはできないだろう。

 

市場に接する書店を起点に流通を組み直すという考え方は、他の取次もほぼ同様の方向で改革を進めている。そういう意味で、出版流通の方向性はほぼ定まったといえる。

 

これまで産業を支えてきたプラットフォームである取次の転換は、同時に出版社や書店などが新たな仕組みを模索する契機にもなる。そうやって、流通の多様性が増すことも期待できる。

(星野渉)