ジェームズ・ドーント氏にインタビュー 日本の書店業界が再生する鍵示す 清水玲奈氏がセミナーで報告へ

2026年2月25日

 2月23日、イギリス・ロンドンの中心地で営業するウォーターストーンズ・ピカデリー店の最上階にある本社オフィスの社長室で、ジェームズ・ドーント氏へのインタビューを行った。1時間半にわたりドーント氏が筆者に語ってくれた内容は、デジタル全盛の時代におけるリアル書店の存在意義と、書店と本に関わる全ての人に突きつけられた課題とともに、ワクワクするような明るい未来像を浮き彫りにするものだった。【清水玲奈】

 

ウォーターストーンズ・ピカデリー店の店頭に立つドーント氏(撮影:Frederic Aranda)

 

 ドーント氏は、「世界で最も人気のある書店」であるドーント・ブックス(ロンドン)の創業者であり、イギリスのウォーターストーンズ、アメリカのバーンズ&ノーブルという両国の最大手書店を経営難の危機から救い、毎年合わせて数十軒もの新店舗を出店し続けている。世界で千軒近い書店を統括するブックセラーであるドーント氏の言葉には、経営者としての冷徹な視点と、一人の愛書家・書店好きとしての情熱と使命感が混ざり合っている。

 

「標準化(画一化)こそが、書店の敵です」

 

 Amazonという巨大なアルゴリズムに対抗するには、効率性ではなく、その場所にしかない「個性」が必要だと説く。その鍵を握るのが現場の人間だ。

 

「店長は、その店舗という小宇宙のCEOであるべきです」

 

 ドーント氏は本社一括の仕入れを廃止し、店長に全権を委譲することで、各地域の読者に最適化された店作りを実現してきた。書店の成功の唯一の鍵となるのが、書店員の情熱とスキルだと強調する。

 

「新しい店の店内をご覧になれば、あ、これは日本の書店のパクリだな、とわかるでしょう」

 

 笑いながら、日本の書店から多大な影響を受けていると明かした。蔦屋書店などのディスプレイや、本と雑貨を絶妙に混ぜ合わせる手法、そして照明の質に至るまで、日本の小売技術を貪欲に取り入れている。また、本以外のグッズを置き、親しみやすい空間づくりをすることで、本屋の敷居を下げ、インクルーシブな店作りにつなげることの大切さを説いた。一方、ビジネスモデルについては厳しい批判も厭わない。

 

「マージン22%だったら、私の書店は明日には潰れるでしょう」

 

 雑貨やカフェの売上によって書店の経営を支えるという構造は、英米でも基本的に同じだと認めつつ、日本の書籍流通における極めて低い利益率を念頭に、持続可能な経営には適切な利益構造が不可欠であることを強調した。

 

「書店は単に本を売る場所ではなく、『知的なエクササイズ』をする場所です」

 

 ドーント氏にとって、書店とは単なる商品の受渡場所ではない。深さと幅広さを両立したキュレーションに基づいて、偶然の一冊に出会い、知的好奇心を刺激することが可能な空間こそが、スクリーン疲れを起こした現代人を呼び戻すと確信している。

 

「どんな国に行っても、見ただけで、あ、あの人は書店員だな、とわかります」

 

 イタリア・ミラノの書店学校に毎年レクチャーに呼ばれているドーント氏は、逆にイタリアの書店員から学ぶことも多かったし、フランスやギリシャなど、さまざまな国の書店員との出会いによって開眼させられたと語る。国境を越えた書店員どうしの連帯感について、こう結んだ。店に置く本に書かれた言葉は違っても書店員は共通の人種なのだという思いがある。この深い愛情こそが、崖っぷちにあった英米の書店を再生させ、さらに成長させ続けている「魔法」の正体なのだ。しかし、魔法を使いこなすには、相当の経験と洞察、現場のスキルが必要とされる。

 

 なぜ、ドーント氏は日本の書店業界の仕組みを「明日には潰れる」と断じながら、その店作りを「パクった」と白状するほど称賛するのか。この矛盾の中にこそ、日本の書店業界が再生する鍵が隠されている。インタビューの詳報は今後本紙に掲載するほか、3月5日の文化通信社セミナー「書店再生の“救世主”ジェームズ・ドーント氏の挑戦―イギリスで独立系書店が増える理由」ではこれまでの「ドーント氏の挑戦」連載を踏まえた上で、インタビューの全容を公開し、私たちが守るべきもの、そして今すぐ捨てるべきものは何なのかを徹底的に考察する。

 

※文化通信社セミナー「書店再生の“救世主”ジェームズ・ドーント氏の挑戦―イギリスで独立系書店が増える理由」は3月5日15~16時30分、オンラインで開催。詳細と申し込みはこちらから