日本推理作家協会 第71回江戸川乱歩賞、第78回日本推理作家協会賞贈呈式

2025年11月21日

 日本推理作家協会は11月4日、第71回江戸川乱歩賞、第78回日本推理作家協会賞贈呈式を東京都内で開催した。江戸川乱歩賞に野宮有『殺し屋の営業術』(講談社)、日本推理作家協会賞では、長編および連作短編集部門に古泉迦十『崑崙奴』(星海社)、短編部門に久永実木彦「黒い安息の日々」(光文社『メロディアス 異形コレクションLVⅢ』収録)、評論・研究部門に杉江松恋『日本の犯罪小説』(光文社)、翻訳部門にスティーヴン・キング著/白石朗訳『ビリー・サマーズ』(文藝春秋)が選出された。

 

受賞者並びに選考委員の皆さん

 

 贈呈式では、江戸川乱歩賞選考委員を代表し、横関大氏が受賞作を「ページをめくる手が止まらなくなる優れたミステリー、エンターテインメント」と評した。受賞者の野宮さんは「自分の悔しい状況や情けない境遇の中から鉱脈を探し出し、それを掘り進めて物語にできる」と、創作への思いを語った。

 

江戸川乱歩賞を受賞した野宮さん

 

 日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門は、選考委員の山田宗樹氏が「密度が濃くて情報量も多い。読み込めば読み込むほど面白さが増す、底知れない魅力」と評価。受賞者の小泉さんは「最大の恩返しは時間をそれほど置かずに次回作を書くこと」と表情を引き締めた。

 

日本推理作家協会賞長編および連作短編集部門を受賞した古泉さん

 

 短編部門と評論・研究部門は、選考委員の月村了衛氏が講評し、短編部門受賞作は「SF・ファンタジー・ミステリーの新たな1ページを刻むもの」、評論・研究部門受賞作は「選評に各委員が記しておられる通り、文句なしの堂々たる受賞」とした。短編部門を受賞した久永さんは、重要なモチーフとなっている先に亡くなったヘビーメタルミュージシャン、オジー・オズボーンと彼のバンド、ブラック・サバスに「感謝とともにご冥福をお祈りいたします」と述べた。

 

日本推理作家協会賞短編部門を受賞した久永さん

 

 評論・研究部門受賞の杉江さんは、受賞作執筆の根底は「ミステリーというジャンルそのものを“犯罪”という概念でもう一度再構成することが可能ではないか」との考えを述べた。

 

日本推理作家協会賞評論・研究部門を受賞した杉江さん

 

 翻訳部門は前年・前々年の試行を経て、江戸川乱歩『二銭銅貨』にちなみ「二銭銅貨賞(Double Copper Award)」として始動。阿津川辰海氏は受賞作を「冒頭の作中作が、あるところで感動的に効いてくる。技巧的かつエモーショナルな趣向に選考委員一同ノックアウトされた」とたたえた。翻訳を担当した白石さんは本作を「人が生きていくうえでフィクションはどれぐらい大事か、フィクションを書くことにどういう魔法が潜んでいるかを感動的に訴える“物語賛歌”」と語り、著者のキングさんからもメッセージが寄せられた。

 

日本推理作家協会賞翻訳部門を受賞した白石さん

 

 閉会のあいさつでは、サプライズで京極夏彦氏が登場。自身のデザインした二銭銅貨賞トロフィーが「スティーヴン・キングの家に飾られることがうれしい」と話した。貫井徳郎代表理事は、新しい試みとして日本推理作家協会展の開催を紹介、「今後も協会員みんな、いい作品を頑張って書いていく」と締めくくった。

 

サプライズで登場した京極氏

 

 日本推理作家協会の企画展「A Piece of MYSTERY 現代ミステリー作家の創作と思考」は、市川市文学ミュージアムで11月22日から開催される。