秋田魁新報社など 第1回矢口高雄マンガ文化賞 「クッキングパパ」に贈賞

2025年11月20日

 秋田魁新報社と横手市増田まんが美術財団が、同市増田町出身の漫画家・故矢口高雄さんの功績をたたえて創設した「矢口高雄マンガ文化賞」の第1回授賞式がこのほど、秋田市内のホテルで行われた。

 

 

 同賞は古里や地方の自然、人々の喜怒哀楽を描いたマンガ作品などが対象。選考には漫画家の高橋よしひろさん、東村アキコさん、京都精華大学理事長でマンガ研究者の吉村和真さん、同財団代表理事の大石卓さんの4氏が当たった。

 

 第1回受賞作品は、うえやまとちさん(福岡県)の「クッキングパパ」(講談社)。福岡市博多をはじめ全国各地の風景や文化を丁寧に紹介していることに加え、40年続く国民的マンガとして幅広い世代に認知されていることなどが評価された。

 

 授賞式でうえやまさんは「連載開始から40年のタイミングで素晴らしい賞をもらえて本当にうれしい。矢口先生、ありがとう」と喜びを語った。また、特別賞として高橋よしひろ賞が村上もとかさん(東京都)の「六三四の剣」(小学館)に、東村アキコ賞が矢口さんの「蛍雪時代」(講談社)に贈られた。

 

 村上さんは「40年も前の作品に光を当ててもらい、大変感激している」と話した。矢口さんの次女の髙橋かおるさんは「『蛍雪時代』は父の自伝的な作品。秋田の四季の移ろいが丁寧に描かれ、中でも雪の描写は印象的。評価されてうれしい」とのメッセージを寄せた。

 

 選考委員の東村アキコさんは「『釣りキチ三平』が大好きで影響を受けた。矢口先生ほど絵がうまい漫画家はいないと思う」とし、特別賞に選んだ「蛍雪時代」について「現代の若い人にぜひ読んでほしい作品」と語った。

 

 主催者を代表して秋田魁新報社の佐川博之社長があいさつし、「新人発掘やその年の優れた作品に贈る賞ではなく、既存作品を対象としているのが他のマンガ賞と異なる点。地方の魅力を再発見してもらう狙いもある」と述べた。

 

 うえやまさんには、矢口さんが描いた「鳥海初冠雪」をあしらった盾と賞金100万円、村上さんと矢口さんの遺族には、記念の色紙と賞金10万円がそれぞれ贈られた。

 

 同賞の候補は、共同通信社と全国の地方新聞社の協力も得て募集。マンガ作品63点、矢口さんの思いに共鳴して活動を続ける個人・団体3件の応募があった。

 

 第1回「矢口高雄マンガ文化賞」授賞式では、故矢口高雄さんへの憧れや敬意が随所に表れた。

 

 矢口さんは横手市増田まんが美術館の初代名誉館長を務めた。同館は漫画をテーマにした全国初の美術館として1995年に開館。漫画原画の保存と活用に取り組み、10月に30周年を迎えた。同館長でもある選考委員の大石卓さんは「節目の年に矢口高雄マンガ文化賞が創設され、しかも思い入れの強い『蛍雪時代』が特別賞に選ばれて、最も喜んでいるのは矢口先生だろう」と述べた。