第78回新聞大会 15年ぶり東京開催 大学生150人が参加

2025年10月16日

 日本新聞協会は10月15日、東京・千代田区の帝国ホテル東京で第78回新聞大会を開き、大会に参加した大学生150人の新聞や報道に対する意識や考えを交えたトークセッションや、「SNS時代の新聞の役割」をテーマにした研究座談会、新聞協会賞と新聞技術賞の授賞式を開催。SNSの影響を受ける選挙報道を進化させることや、生成AIへの対処の必要性を訴える大会決議を採択した。

 

関係者445人と学生150人が集まった新聞大会

 

 東京での大会開催は2010年以来15年ぶり13回目。会場には業界関係者など445人が参加したほか、首都圏の15大学から大学生150人が招かれた。授賞式では新聞協会賞7件、新聞技術賞1件に賞が贈られた。

 

 大会決議では、SNSに広がる偽情報や誹謗(ひぼう)中傷による選挙への影響に対し、「真偽検証を含め選挙報道の進化に取り組む」とし、「生成AIの普及と技術進化は社会に変革をもたらしつつある」とした上で、「ニュースコンテンツの無断利用が続けば報道機関の機能が損なわれかねない」と危機感を表明。国民の知る権利にもかかわる重要な問題として対処する必要性を訴えた。また、事実に立脚した正確な報道と公正な論評を届け、社会と向き合いながらジャーナリズムの責務を果たすことを誓った。

 

 あいさつに立った中村史郎会長(朝日新聞社代表取締役会長)は、めまぐるしく動く国内外の情勢に言及。報道機関が担う役割がますます重要になっている、とする一方で選挙報道や生成AIへの対応など「真価が問われる事態に直面している」と指摘。

 

あいさつに立つ中村会長

 

 協会の体質強化に向け、新聞ジャーナリズムの意義の社会への浸透や事業・組織・財政の見直しといった改革に取り組んでいることに言及。あらゆる人が働きやすい業界になるために「ジェンダー・多様性に関する協議会」で議論が進められていると述べ、協会加盟の新聞社・通信社の全役員・社員への意識調査を実施することを報告。

 

 最後に「正確で公正な記事と責任ある論評」を新聞の責務に掲げる新聞倫理綱領を引用し、「広くメディアに携わる者としての『矜持(きょうじ)と責任』をもって、私たちの未来を切り開こう」と締めくくった。

 

 新聞協会賞・新聞技術賞の授賞式では、中村会長から受賞者に賞状とメダルが贈られ、受賞者8人がスピーチをした。

 

新聞協会賞・新聞技術賞の受賞者

 

 初めての試みとなった大学生を交えたトークセッション「学生100人と考える ニュースって誰のため?何のため?」は、今年度の新聞協会賞を受賞した朝日新聞社の沢伸也編集委員、信濃毎日新聞社の濱田朝子記者と大学生の田邊紗良さん(立教大学3年)と津田凜太郎さん(上智大学3年)が登壇。元村有希子・毎日新聞社客員編集委員がモデレーターを務めた。

 

トークセッションに参加した、右から濱田氏、沢氏、元村氏、田邊さん、津田さん

 

 沢氏と濱田氏が協会賞を受賞した報道に至ったきっかけや、裏取りの苦労、取材で得た情報を報じるまでの難しさや、報じたことの社会的な意義などについて報告し、登壇した学生とももに、LINEのオープンチャットで会場に参加した大学生からも意見や考えを募りながら話し合った。

 

 若い世代がなぜ新聞を読まないかを問われると、田邊さんは「ネットニュースでも情報を取れる中、新聞を取らなくてもいいと考える人が増えたと思う」、津田さんは「SNSは速報性に優れている。無料でしかも早く読める媒体として、たとえそれが偽情報だったとしても活用してしまう人が多いのでは」と話した。

 

 続いて研究座談会「SNS時代の新聞の役割」が開かれた。パネリストはarca代表取締役でクリエイティブディレクターの辻愛沙子氏、スマートニュースメディア研究所所長の山脇岳志氏、朝日新聞社取締役コンテンツ統括/編集担当の坂尻顕吾氏、神戸新聞社取締役編集・論説・DX推進・デジタル事業担当デジタル推進局長の小山優氏の4氏。新聞協会の大島宇一郎副会長(中日新聞社代表取締役社長)がコーディネーターを務めた。

 

研究座談会に登壇した、左から大島氏、山脇氏、辻氏、坂尻氏、小山氏

 

 冒頭、コーディネーターを務めた大島氏が新聞を取り巻く状況として「総務省の調査では、SNSの利用者は1億人を超えている。半面、デジタル空間には偽・誤情報も飛び交い、誹謗中傷も飛び交う。生成AIはこの傾向に拍車をかける可能性もある。偽・誤情報の拡散を容易にし、既存メディアのニュースサイトを参照されなくする懸念がある」と説明。

 

 その上で、「既存ジャーナリズムは『オールドメディア』とも呼ばれ、誤解なのだが、既得権益と結びついて報道内容が偏向している、といった見方も珍しくない。信頼、参照されるメディアであり続けられる課題は何で、その克服にどう取り組んでいくか、新聞が持つ価値や果たすべき役割とは何か。本日は4人のみなさんと話し合いたい」と問題提起した。

 

 4人のパネリストはまず、それぞれ議論の材料になる考えを示した。

 

 山脇氏は、スマートニュースメディア研究所が2年ごとに実施している世論調査の結果を示し、「日本の新聞などマスメディアの信頼度は高いことがわかっている。兵庫県知事選などでマスメディア批判が高まったものの、25年の結果は23年とほぼ変わらなかった。ただ、世代ごとでかなり差がある。選挙・政治ニュースの情報源として選ばれているのは、テレビ、ネット。紙の新聞・雑誌の順で、SNSは4番目だが、一定の存在感はある」との結果を説明。最近話題となる「ニュース回避傾向」については、日本では18%の人がニュースを避けたいと考えている、との調査結果を引いた上で、「世界的にみると日本はまだよい方だ」と説明した。

 

 辻氏は、インターネット調査の結果に基づき、情報との接し方の実情を解説。「『情報を浴び続けているけれども、何を信頼していいのかわからない』というのが、(世代に関わらず)読み取れる」とする一方、選挙に関する情報収集については「若い世代も含めて、新聞を情報源とする人が増える」との結果も示し、「テーマを絞れば新聞に触れる若い人も少なくない」と話した。その上で「18~24歳の約半数が『現在のニュースに興味がある』と回答をしている」と説明。「SNSをメインで使っている世代に関しては、ニュースに興味を持っているにも関わらず、そこに応える情報が届けられているのか、がメディアに問いかけられている」と語った。

 

 坂尻氏は「我々はどのように見られているのかということ。残念ながら、上から目線、権威的にすぎるという見方をされている。自分たちがどういうふうに見られているのか、思っている姿と落差がある、相違がある、そこから出発しないと変わらないし、ユーザー・読者から無視、あるいは敵視されることになってしまいかねない」と述べた。さらに「新聞が若い世代にほとんど読まれていないということを真剣に考えなくてはならないということ。少しでも届かせる、届けきるという努力が必要だと思う」とした。

 

 小山氏は、昨年秋の兵庫県知事選の報道をめぐって神戸新聞社がSNS上で厳しい批判を受けた経験をもとに、「偽情報、誤情報が主にSNSを通じて拡散され、社会にとって重要な意思決定に少なからず影響を及ぼすようになっている」と話した。「私たちが経験したのは、いったんSNSの大きなかたまりが動き出すと、私たちの報道した内容がのみ込まれていったということだ。ジャーナリズムの目的の一つである権力監視が非常に危うい、憂慮すべき事態に直面していくというふうに感じている」と述べた。

 

 こうした問題意識をもとに、今年の参院選などで報道各社が取り組んだファクトチェックや若年層の政治への関心、SNSとの共存のあり方やメディアリテラシーについて議論を重ねた。

 

 会場で議論を聞いた中村会長は登壇者に感謝の意を示した上で、「私たち、悩める業界にとってヒントはいっぱいあった。新聞、マスメディアの信頼を取り戻していく、刺さっていくためには、プロセスの可視化が重要だということを感じた」と述べて座談会を締めくくった。

 

 大会終了後、会場を移してレセプションが開かれ、業界関係者が親睦を深めた。

 

レセプションで杯を上げる中村会長

 

【第78回大会決議】

 

 世界各地で進む社会の分断により既存秩序が揺らぎ、繁栄や安全を自国第一主義に求める動きが拡大している。ウクライナや中東では戦禍が続く。日本でも参院選で各党の勢力図が大きく変わり、政治状況や社会の価値観が変化しつつある。

 

 SNSに広がる偽情報や誹謗(ひぼう)中傷は、民主主義の基盤である選挙にも大きな影響を及ぼしている。新聞協会に加盟する各社は有権者の確かな選択に資するため、情報の空白を作らず、真偽検証を含め選挙報道の進化に取り組む。

 

 生成AIの普及と技術進化は社会に変革をもたらしつつある。ただ、ニュースコンテンツの無断利用が続けば報道機関の機能が損なわれかねない。国民の知る権利にもかかわる重要な問題として対処する必要がある。

 

 戦後80年を経てメディア環境が激変し、複雑化する現代社会においても、私たちは民主主義の発展を担い続けたい。事実に立脚した正確な報道と公正な論評を届け、社会と向き合いながらジャーナリズムの責務を果たすことを改めて誓う。

 

中村協会長あいさつ

「『矜恃と責任』もって未来切り開こう」

 

 第78回新聞大会を東京で開催することとなりました。東京での開催は2010年以来15年ぶり、13回目となります。

 

 今回は東京開催を機に、首都圏の100人以上の大学生の皆さんに参加いただいています。学業でご多忙のところ、足を運んでいただいた学生の皆さん、また協力をいただいた各大学の先生方にお礼を申し上げます。

 

 本大会では、新聞協会賞受賞者と大学生のトークセッションを予定しています。若者の新聞離れが進む中、「ニュースは誰のためにあるのか、何のためにあるのか」について、学生の皆さんと一緒に考えます。新聞大会をより開かれたものにするためにも、有意義なセッションになることを期待しています。

 

 戦後80年の今年、米国でトランプ大統領が再登板し、民主主義や外交・貿易の秩序が大きく揺らいでいます。ガザでの戦争をめぐっては、和平に向けた大きな節目を迎えましたが、なお予断を許さない状況です。ウクライナで続く戦乱は、ロシアの侵攻開始から3年半を超え、いまだに出口が見えません。国内では、参院選での与党敗北を機に政局は混乱し、自公連立政権が解消。いまだにどのような枠組みの政権が誕生するかわからない異例の事態が続いています。急速に浸透する生成AIは社会を根底から変えつつあります。

 

 世の中はめまぐるしく動き、私たち報道機関、マスメディアが担う役割はますます重要になっています。と同時に、わたしたちの真価が問われる事態に直面しています。

 

 昨年来、国政選挙や地方選挙におけるSNSの影響力の高まりが指摘されています。もはや生活インフラの一部となったSNSですが、真偽不明の情報や暴力的な情報が拡散される悪影響も顕在化しています。不正確な情報が選挙結果に強い影響を与えたとすれば、民主主義の根幹を揺るがす深刻な事態です。今年6月、協会は「インターネットと選挙報道をめぐる声明」を発表しました。事実に立脚した報道で民主主義の維持・発展に貢献することが報道機関の責務であることを改めて表明し、参院選ではファクトチェックをはじめ活発な報道が行われた事は一定の成果です。今後も有権者の判断に資する確かな情報を積極的に提供していきます。

 

 同じ6月には「記者等への不当な攻撃に対する声明」も出しました。記者に対する根拠のない誹謗(ひぼう)中傷や侮辱がSNS上で投稿、拡散され、記者個人のプライバシーが侵害される事例も増えています。正当な取材活動が妨げられることで、自由な報道と表現が脅かされてはなりません。協会は今後も記者と取材活動を守り、支援する努力を続けていきます。

 

 生成AIへの対応は、ここ数年で浮上した新しい課題です。生成AIは私たちの業務を革命的に変え、新しい報道の形やサービスを生み出す可能性を秘めています。一方で、多大な労力とコストをかけた報道コンテンツが正当な対価を支払われず、無断で利用される「タダ乗り」は決して許されません。著作権侵害に該当する可能性が高いと考えています。「知る権利」の観点からも、生成AI時代に見合った法制度の整備を急ぐ必要があります。

 

 さらに、こうした厳しい環境にある中で、この一年、協会加盟社において、ジャーナリズムへの信頼、あるいはメディア企業への信頼を毀損(きそん)する事案が起きていることは憂慮すべきであり、極めて残念です。一つ一つの事案について、ここにいる誰もが「他人事ではない」と感じられたはずです。私たちは、SNSとは違う、生成AIにはできない社会的な役割を担っていると自負しています。間違いや失敗をしたときは責任を持って対応することも大切な役割の一つです。そのことを改めて確認したいと思います。

 

 新聞協会は、新聞ジャーナリズムの意義の社会への浸透、事業・組織・財政の見直しを中心とした協会改革を進めています。ジャーナリズムの浸透は、報道界全体のブランド価値を高めることです。報道を支えるメディア企業各社のビジネスは多角化、多様化していますが、業界共通の利益に関わる基盤整備は協会の役割です。その役割を果たすために、協会の体質強化を進めます。会員各社のご理解とご協力をお願いします。

 

 今年6月、協会内に「ジェンダー・多様性に関する協議会」を発足させました。多様な働き方が社会に広がる中、性別や年代、障がいの有無などを問わず、あらゆる人が働きやすい業界になるためにはどうすればよいか。将来に向けた議論を進めています。ここ数年改善が進んではいますが、会場を見渡せばまだまだ圧倒的に男性が多いです。会場にいる若い学生の皆さんに、この姿がどのように映るか。私たちは意識しなければなりません。

 

 まずは私たち自身のリアルな姿を把握するため、協会に加盟する新聞・通信社の全役員・社員を対象とした意識調査を実施します。調査対象が3万人を超える、協会として初めての試みとなります。各社におかれましては、より多くの回答が得られるよう協力をお願いいたします。

 

 最後に、00年に改訂された新聞倫理綱領は、今日の状況を的確に見通して指摘しています。「おびただしい量の情報が飛びかう社会では、なにが真実か、どれを選ぶべきか、的確で迅速な判断が強く求められている。新聞の責務は、正確で公正な記事と責任ある論評によってこうした要望にこたえ、公共的、文化的使命を果たすことである」。

 

 綱領の原点を改めてかみしめ、新聞人、広くメディアに携わる者としての「矜持(きょうじ)と責任」をもって、私たちの未来を切り開きましょう。ありがとうございました。