イオングループで200店を超える書店を展開する未来屋書店は、出版社などから送られてくるファックスのコストと作業負担を削減するため、2022年にほとんどの店舗からファックス機を撤去した。これに合わせて店舗にネットツールの利用を促すなどしたところ、店舗の情報収集や発注に大きな支障は発生しておらず、計画通りのコスト削減、省人化を実現できている。ファックス撤去に伴う対策や現状、効果などについて同社営業企画部部長・松崎康弘氏と、営業企画部店舗運営改善グループマネージャー・國松大也氏に取材した。(編集部)
ネットサービスの活用促す
同社は22年10月に一部の大型店を除く店舗からファックス機を撤去し、主要出版社に対してファックス送信を止めるよう通知した。
それまで同社の全国店舗には、出版社からのチラシや注文書など年間で200万件余のファックスが届いており、用紙や通信料などで年間1000万円ほどのコストが掛かっていた。さらに、仕分けや廃棄などの手間も発生していた。
松崎氏は「業務効率化に向けて省人化とDX化を進める中で、毎日大量に送られてくる営業ファックスの課題が大きく、本当に必要なのか現場にヒアリングも行い踏み切った」と当時を振り返る。
店舗への事前ヒアリングでは、本部商品部から提供する商品情報や、出版社のウェブサイト、SNSなどから得る情報で、必要な情報はほぼ網羅できるという反応だった。
そこで、店舗に対して「まず出版情報プラットフォームBookLinkPRO(文化通信社)のアカウントを全店に設定し、Bookインタラクティブ(インテージテクノスフィア)やS-Book(昭和図書)、Webまるこ(講談社)など受注サイトの活用を案内した」(國松氏)。
ファックス機撤去後も、こうした手段で店頭での情報収集や発注は問題なく行われているが、合わせてファックスの代替手段となる仕組みも整えた。
一部の新刊予約や返品了解、図書カードの発注など、どうしてもファックス機能が必要になる業務のために、本部がインターネットファックスを1回線契約し、各店舗がイントラネットで発信でき、受信はOCRサービスを導入し送信先店舗に自動仕分けされる仕組みを作った。返品了解は商品コードをスキャンして必要事項を入力すれば、ネットでそのまま送ることができる。
また、図書カードについては、取引取次トーハンが今年春からウェブ発注システムの提供を開始。「ファックスの場合は届いたか確認の電話もしていたので、大変助かっている」(國松氏)と業務の効率化に結び付けている。
その結果、「店舗から不便になったとか、困ったという声はほとんど聞いていない」(松崎部長)という。また、当初は一部の出版社から戸惑いの声も上がったが、「問い合わせがあればBookLinkPROに掲載いただくとか、メールで送っていただくよう代替手段を促している」(國松氏)と対応し、トラブルは起きていない。
見込んでいた資材や通信費と作業負担についても、計画通りに削減できた。「厳しい業界なので、コストコントロール、人時コントロールは必須。その武器の一つという位置付け。ほぼ想定通りの省人化、生産性向上ができている」(松崎部長)という。しかも、システムは内製とSaaSサービスの組み合わせで構築したので、大きな費用は発生していない。
店舗の発注は歓迎
同社では本部商品部に所属する6人のジャンル別バイヤーが、出版社との商談などで得た商品情報や、社として注力する商品など、必要な情報をイントラネットに上げて店舗に知らせている。新刊の発注や売れ筋の確保など主要商品の発注業務も商品部が担うため、店頭からの発注は全体の1~2割程度だという。
それでも、店舗からの発注に制限をかけているわけではない。「お店がある地域やお客様のニーズがあるので、各店には月の在庫予算の範囲内で発注の裁量権があり、社員でなくてもパートさんなどでも棚を持っていれば発注している。むしろそれは歓迎すべきことだと考えている」(國松氏)。
いま、店舗で利用している発注のツールは、トーハンの「TONETS V」と社内システム、出版社の受注サイトの3つで9割ほどを占める。社内システムであれば各店の対象商品の売上、在庫数なども確認して発注することが可能だ。
同社は、社内ネットの情報ツールや発注システム、そして業界インフラなども活用することで、大量なファックスから解放されたといえる。
実は、ファックスの撤去後も一部大型店からの希望でファックス機を残したが、再度ヒアリングを実施して、今年10月末で全店撤去することにしている。また、特約店向けの新刊案内などをファックスのみで提供している一部の大手出版社とは、専用のインターネットファックス回線を設けているが、「我々としては残る一部の出版社へ対してもファックスを別の手段に切り替えていただけるとありがたい」と松崎氏。さらなる効率化に取り組んでいく考えだ。