【出版IPビジネス特集】文学作品をイメージしたネイルを開発 IP活用で本とのタッチポイント増やす

2025年6月18日

江戸川乱歩シリーズの展開風景@文喫六本木

 

 日本出版販売(日販)のプラットフォーム創造事業本部IPソリューションチームが展開する「文学を纏う」ブランドとして、台湾のネイルブランド「et seq.(エセク)」とコラボレーションした羽根ペンネイルポリッシュは、現在3万本を突破する人気シリーズだ。

 

 同シリーズはこれまで宮沢賢治の作品を元にカラーを制作した商品を皮切りに、5月にはシリーズ第6弾にあたる江戸川乱歩作品をモチーフにした新作カラーを発売。これらパブリックドメインの作家だけではなく、京極夏彦や森見登美彦、江國香織などの現代作家の作品モチーフの商品も手掛け、8月には凪良ゆう作品シリーズを発売予定だ。その事業について同チームリーダー・加藤隼士氏とマネージャー・林和泉氏に話を聞いた。

 

五感で文学を堪能する

 IPソリューションチームは、俳優・声優の音声と書店内を巡る体験型サービス「ボイスフレンド」などを手掛けており、IPを活用し、新しいアプローチで本との接点を社会に提供することにより、新たな市場の開拓をミッションとして掲げている。

 

 ブランド「文学を纏う」は、作品が持つ世界観や美学、作家の言葉に対するこだわりを、本を読むことではなくネイルの色やルームミストの香りなど五感に訴えるアイテムを通じて堪能できることをコンセプトとしている。

 

 「文学を纏う」の始まりは、2021年に海外文学モチーフのネイルポリッシュをオンライン販売していたet seq.に、文喫でのポップアップ販売を持ち掛けたことがきっかけで、これを機にet seq.側から日本文学をテーマにしたネイルを共同開発できないかというオファーがあり、両社のコラボレーション企画が始まったという。

 

 林氏はブランドの魅力について「小説から感じ取るものは人それぞれで、その自由さと想像性が文学の魅力。その一方で他者と感想を共有するなど共感性もある。香りや色も同様。好きな作品のアイテムを身に“纏う”ことで、作品に漂う雰囲気や世界観を味わってほしい」と語る。

 

5本入り特製ボックスセット

 

海外ブランドとの連携と取次の強み

 開発にあたって、著作権が発生する現代作家の作品については、出版社を通じて各作家に許諾を得ている。加藤氏は「取次会社として出版社様との信頼関係を築いてきた日販だからこそ実現できるスキーム」としたうえで、「海外ブランドにとって、日本の出版社と直接取引をするのはハードルが高い。当社が間に入ることで、販路や商品開発を含め、日本市場での事業展開をサポートできる。それがこのネイルシリーズの成功にもつながっている」と語る。

 

 商品は1本あたり1680〜1880円、5本入りの特製ボックスセットは8400〜9000円で販売。蔦屋書店や有隣堂の「STORY STORY」など、10店舗以上と取引をしているが、特設のポップアップから常設展開に切り替える書店も増えており、日販の取引先以外の書店にも販路が広がっているという。

 

 当然、各作家の書籍や文庫との併売は効果的で、作家のファンだけではなく、ネイルポリッシュに引かれて本を同時購入するケースも多いという。林氏は「本や小説と接点がなかった方に本を届け、一方ファンの方には小説とは違う楽しみ方を提供することで、双方向で読者と書籍との関わりを広げ、深めていく」と話す。

 

 また、今後の展望について林氏は「想像性と共感性」をテーマに挙げ、「例えば味覚に訴えるものや、色や香りでもこれまでと違うアプローチで新しい製品を提供していきたい」と意欲を示す。

 

 加藤氏は「日販として“人と文化が出会う新たな場所”を創ることを目指しており、今までにない方法でIP事業を進めていく」とし、「その一例として、地域の文学館や自治体、地元企業などと連携し、IP製品等を通じて、地域の魅力を伝え、観光地を訪れる海外旅行者に向けた日本文学の発信なども進めていきたい」と語り、今後もこれまでとは違うアプローチで本とのタッチポイント創出に努めるとしている。

 

加藤氏(左)と林氏

 

日本出版販売株式会社
プラットフォーム創造事業本部IPソリューションチーム
担 当:加藤、林、三上、樋口
Mail:bungakuwomatou@nippan.co.jp