【出版IPビジネス特集】出版コンテンツをノーリスクで商品化する インプレスグループのオンデマンド型ECサイト「pTa.shop」「fabli」 株式会社IPGネットワーク

2025年6月17日

 幅広い専門メディア企業が集まるインプレスグループで、業務支援や新たなサービス開発に取り組む株式会社IPGネットワークは、多くの出版社が保有する豊富なコンテンツを活用しマネタイズできるオンデマンド型のECサイト「pTa.shop」(ピーティーエー・ショップ)と「fabli」(ファブリ)を展開している。それぞれの仕組みや顧客からの反応、利用状況などについて、同社プラットフォーム事業推進部部長の井爪敦氏に聞いた。

 

アパレル・雑貨がメインの「pTa.shop」最短1週間でTシャツ作成

 

 「pTa.shop」と「fabli」は、ともに出版社が保有するコンテンツを二次利用するためのECプラットフォーム。2022年にオープンした「pTa.shop」はTシャツなどのアパレルや雑貨を主に扱い、23年にオープンした「fabli」は紙のカレンダーや写真集といったプリントサービスをメインとしている。どちらも受注してから生産するオンデマンド型のECサービスとなり、出品する側は在庫のリスクを負う必要がない。

 

 現在「pTa.shop」で販売中の商品企画は3000アイテムを超えており、拡大を続けている。

 

出版社がオフィシャルに出店する「オンデマンドプリントTシャツモール」(pTa.shop)

 

 井爪氏によると「Tシャツであればカラーで30種類、サイズはキッズも含めて10サイズ程度を展開することが可能」とのこと。基本的には受注から5〜6営業日で購入者の手元に届くが、刺繍を施したプリント以外のデザインのキャップなど、生産にある程度時間がかかる商品は、期間を限定して受注し、一括で生産することもあるという。

 

小説生原稿や絵本作家のイラストTシャツが大ヒット

 

 現在、同ショップに参加している出版社はインプレスグループの各社や文芸書の新潮社、早川書房、児童書の偕成社、理論社、実用書の西東社など27社。近く30社程度にまで増える見込みだ。

 

『斜陽』(新潮社)の生原稿Tシャツ

『シャーロック・ホームズの護身術 バリツ』(平凡社)の杖を使った護身術Tシャツ

 

 

『山と溪谷』(山と溪谷社)のロゴを使用した刺繍キャップ

 

 ファッションECサイトのようなECモールを目指すうえでは、ブランドとも言える参加出版社をまだまだ増やす必要がある。その一方で「これまでに新潮社による太宰治の『斜陽』生原稿Tシャツや、ヨシタケシンスケ氏のイラストTシャツなどの大ヒットアイテムのほか、山と溪谷社の雑誌『山と溪谷』のロゴを使用したシリーズなどのいわゆる二次利用コンテンツのヒット企画も出てきており、サービス開始以来、売上は毎年2倍以上に拡大し順調に成長しています」と今後への自信も示す。

 

 販売価格については「出版社にしかないコンテンツであることを考えると、Tシャツの場合はファストファッションのように安さで勝負するべきではない」と考えており、主な購入層のワードローブを分析しつつ「参加出版社にしっかりとロイヤリティを支払えて、お客様がカジュアルに購入できるギリギリのラインとして、半袖Tシャツで4500円+税」を基準価格に設定しているという。

 

 また、出版社が初めて参加する場合のハードルも低く設計されている。「まずはTシャツから始める出版社が多く、レギュレーションに則ってデザインデータを納品してもらい、当社で商品情報の登録や設定をして、早ければ1週間以内に販売が可能」というスピーディーなシステムで、初期費用もランニングコストもかからず、出版社には一定の期間で集計した売上数に応じたロイヤリティが支払われるという。

 

イベント物販への大きな可能性

 

 「pTa.shop」、「fabli」ともに、リアルイベント会場などでも販売できる「オーダーカード」というサービスがある。

 

 たとえばTシャツの場合、イベント会場に商品サンプルだけを並べ、来場者にはクーポンコード付きのカードを販売する。カード購入後に専用ページにアクセスし、サイズやカラーを吟味して選ぶと数日で商品が届くというシステム。

 

 会場にTシャツの在庫を大量に持ち込む必要がなく、カードさえ置くことができれば全国どこの会場でも類似の催しを行うことができる。

 

自分だけのオリジナル写真集

 

 「fabli」は出版社が保有するコンテンツを活用し、購入者が自分で編集して写真集やカレンダーを作ることができるオンデマンド型ECサイト。

 

月刊『Jウイング』のコックピットタペストリー(fabli)

 

 購入者は、多いもので数千~1万枚あるという写真群から好きな写真を選び、最初から最後まで自分で編集することができる。もちろん作業が大変という場合は「おすすめセレクション」から注文することも可能だ。

 

 「pTa.shop」で扱うTシャツやアパレル商材とは異なり、写真集やカレンダーは同じジャンルでもコンテンツによって値ごろ感が大きく異なるケースがあるため、基本的に商品の販売価格は出品する側が決める。「fabli」からは卸価格に近い提供価格のみが設定され、コンテンツの提供者はその上に自由に利益を乗せて販売することができるのも特徴だ。

 

 「fabli」で扱われるコンテンツの中には、計器に埋め尽くされた飛行機のコックピットのポスターや、旅情感あふれる鉄道写真といった、マニア心をくすぐるようなものが多数あり、井爪氏は「街でよく見かける、ファンがたくさんいそうなテーマの写真集やカレンダーではなく、母数は少なくとも確実にコアなファンがいるコンテンツを一冊からカスタマイズして購入できるスタイルで、熱量の高いファンが購入してくれています」と傾向を語る。

 

 また、一般的なカレンダーは表紙を含めれば基本的に13枚だが、その裏には泣く泣く落とされていった数百枚もの写真があり、編集者にとって思い入れのあるカットも無数にあるはずだとし、「世に出なかった数百枚の写真をスピンオフ企画としてファンが自由に選べて、自分だけのカレンダーを作ることができたら、きっとみんな(出版社とファン)にとって良い企画になるのではないか」と「fabli」らしいコンテンツの拡張性を挙げた。

 

大ヒットよりもロングテール商品を

 

 現在「fabli」には8社の出版社が参加しており、カレンダー、写真集、ポスターといったアイテムを展開。商品によっては1000部を超える売れ行きのものもあれば、毎月10冊、10枚というペースで売れ続けているロングテール商品もあるという。

 

 「『fabli』のコンセプトとしては(商品を)投入して初月に1000部売れたというよりも、あくまでもコンテンツの2次利用ということを踏まえて、毎月少しずつでも、長い期間売っていけるようなものが合うのではないかと考えています」とし、イベントに依存しない持続的なファンとのつながりを重視している。

 

 最後に井爪氏は「初期費用、在庫リスク、ランニングコストが不要。参加するリスクは限りなくゼロに近いので、ぜひすべての出版社さんに参加してもらいたい」と語り、「これまでに販売してきたデータからお話しできることはたくさんあります。まずは一度、私たちとお話ししてもらえたらうれしいです」とメッセージを添えた。

 

 出版社ならではのコンテンツを本の刊行以外にどう活用できるか、その先見的取り組みと実績を兼ね備えた、同社によるオンデマンド型ECショップの「pTa.shop」と「fabli」。出版業界のみならず、IPコンテンツの二次利用を考えるあらゆる企業から注目が集まるに違いない。

 

株式会社IPGネットワーク

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