集英社「東京バンドワゴン」 シリーズ20巻目の最新刊発売 著者がサイン会&書店訪問

2025年5月23日

 人気小説家の小路幸也(しょうじ・ゆきや)さんの代表作「東京バンドワゴン」シリーズ(集英社)が、4月25日発売の最新刊『ザ・ネバーエンディング・ストーリー 東京バンドワゴン』で節目の20巻を迎えた。その刊行を記念した小路さんのサイン会が5月8日、東京都千代田区の三省堂書店有楽町店で開かれた。また、翌9日には千葉県船橋市のときわ書房本店(宇田川拓也店長)と、同我孫子市のブックマルシェ我孫子店(渡邉森夫店長)を相次いで訪れ、日頃の感謝を直接伝えた。

 

ブックマルシェ我孫子店を訪問した小路さん(右)と渡邉店長

 

 小路さんは、北海道生まれ、広告制作会社退社後、執筆活動に入り、『空を見上げる古い歌を口ずさむ』で第29回メフィスト賞を受賞して作家デビュー。『旅者の歌』『札幌アンダーソング』『国道食堂』『花咲小路』など著書多数。

 

 「東京バンドワゴン」シリーズは、東京のお寺が多い辺りの下町にある老舗古書店・東亰バンドワゴンに舞い込む謎を、大家族の堀田家が人情あふれる方法で解き明かしていく人気シリーズ。

 

 2006年4月に第1作の単行本『東京バンドワゴン』が発売されて以来、新刊を毎年刊行。堀田家の今の1年を描く「本編」が3作(3年)続き、主に過去の時代の堀田家などを描く「番外編」を1作(1年)はさむ形で続いている。20作(20年)目の今回は、4年に1回の番外編となっている。

 

 毎作の巻末には、「あの頃、たくさんの涙と笑いをお茶の間に届けてくれたテレビドラマへ。」と必ず記されているように、読者は昔なつかしいテレビのホームドラマのテイストを味わうことができる。また、どの巻から読んでも物語の世界にスッと入っていけるように書かれているのも、このシリーズの特長だ。13年には、亀梨和也さん主演でドラマ「東京バンドワゴン~下町大家族物語」(日本テレビ系)が放映された。

 

 第1作は08年4月に文庫化され、それ以来、ほぼ毎年4月には新刊の単行本と既刊の文庫版が同時に刊行されている。ファンにとっても、書店にとっても、その同時刊行は、20年近く続く「春の年中行事」になっている。さらに、文庫版の「解説」を日本全国の書店員が順繰りに執筆し、作中に実在の書店員と同名の人物が登場するのも、知る人ぞ知るシリーズを楽しむポイントのひとつだ。

 

待ち望んだファンとサイン会で「再会」

 

 5月8日に三省堂書店有楽町店で開かれたサイン会には、約70人の愛読者が参加し、作品のもつハートウォーミングな空気感そのままに、素敵な時間を過ごした。

 

 親子2代にわたる読者も多く、「父親の影響で読み始めました」という20代の女性や、中には母親に連れられて参加した小学生の姿も。先頭に並んでいた男性は「16年くらい前に、書店で見かけたカバーにひかれて買って以来のファン」だという。以前もサイン会に参加していたそうで、「コロナ禍で中止になった2020年のサイン会にも参加予定だった。今日のこの日を待ちわびていた」と、喜びもひとしおの様子だった。

 

三省堂書店有楽町店で開かれたサイン会

 

 小路さんは新刊にサインを入れ、2ショットでの写真撮影にも応じた。約1時間30分をかけて参加者と触れあった小路さんは、「コロナ禍で長い間できなかったので、今日は本当に久しぶりのサイン会。普段会えるはずのない方々に会えるのは、本当にうれしい」と笑顔で語った。

 

千葉の書店を訪問 感謝の言葉伝える

 

 翌9日は、ときわ書房本店の宇田川店長と、ブックマルシェ我孫子店の渡邉店長を訪問。2人とも文庫版の解説を執筆し、作中に自身の名前が付いた人物が登場している。小路さんは用意された本やポスター、色紙にサインをしながら、読者に本を届け続けてくれる書店にあらためて感謝の意を示した。

 

 宇田川店長は「最初から読むのもいいが、まずは気になった巻から飛び込んで読んでみてほしい。そうすれば、そこからさかのぼったり、続きが気になったり、はまっていくだろう。そんな親切設計な物語であるのも『東京バンドワゴン』の魅力のひとつ」と薦める。

 

 そのうえで、「いち書店員として、作家さんと読者の距離を少しでも近づけるお手伝いができたらと常々思っている。この店でサインが入った本やポスターを見た人は、小路さんや『東京バンドワゴン』をより身近に感じてもらえるはず。そういう機会を提供できるのは、リアル書店の魅力でもあるので、今回のような機会があれば、またぜひお声がけいただきたい」と話した。

 

ときわ書房本店で直筆サイン入りポスターを手にする小路さん

 

 渡邉店長も、小路さんの来店を歓迎。「(北海道という)遠いところからわざわざ来ていただき、本当にありがたい。解説を書いてよかった」と笑顔を見せた。また、「毎年この時期に、新刊の単行本と既刊の文庫版が同時に出るので、待っているファンも多くいて、発売と同時に消化率が良いのもありがたい。この時期の風物詩として定着している。小路さんにはできるだけ長く書き続けてほしい」と思いを語った。

 

小路さん「今後も書き続けたい」

 

 書店回りの合間、文化通信社の取材に応じた小路さんは、「1作目を書いたときは、まさかこれほど長いシリーズになるとは予期していなかった。3作続く本編が連続ドラマなら、1作はさむ番外編は映画や(2時間の)スペシャルドラマのイメージでいつも書いている」と明かした。

 

 子どものころから自然に、本や書店が好きになったという小路さん。「私にとって今も、書店、書店員さんはとても大きな存在。書店員さんが私の作品を好きになってくれて薦めてくれるから、多くの人に手にとってもらえる。毎回、文庫版の解説を書店員さんが書いてくれているのも、本当にありがたい」と感謝した。

 

 そんな書店が減っている現状に、「電子書籍の売上も伸びており、それによって読者の裾野も広がっているが、私のような紙の本が大好きな人間にとって、リアル書店は欠かせないし、無くなりはしないと思っている。物語や小説が好きな人、これから好きになるような人は必ず、書店で紙の本を手にとってくれるだろう」と書店の必要性をあらためて語った。

 

 シリーズの今後についても、「もう終わりと言われるまでは書く予定(笑)。20巻に到達したが、書き続けられるだけ書きたいし、物語としてもまだまだ書き続けられる」と、今後への意欲を示した。