【デジタルトレンド】61 広告事業に参入 検索AI「Perplexity」が考えるエコシステムとは 「人間」が主役の生成AIを追究

2024年6月1日

 生成AIサービスの普及が広がる中で、危惧されているのが検索サービスの変化だ。2月には調査会社の米ガートナーが、ChatGPTをはじめとする生成AIサービスの普及を主因として、2026年までに検索エンジンの利用量が25%も減少するとしている。広告収入の面から、メディアビジネスの基盤を揺るがすことになりかねない。そんな中、注目されているのが、検索・情報収集に機能強化したAIサーチエンジンというサービスの登場だ。代表格は米Perplexity。AI利用で進化した検索システムの普及はメディアのエコシステムにどんな影響を与えるのだろうか。

 

 生成AIは、ニュース記事から小説、静止画、動画、音楽までほとんどの分野のコンテンツが対象となる仕組みで、利用範囲も広い。しかし、さまざまなコンテンツの作成効率を大幅に向上させる一方で、事実確認がしにくかったり、ハルシネーションと呼ばれるウソの情報を生成することもあり、これまでの検索エンジンと同じような使い方はしにくかった。文脈的に正しそうな文章を返してくるが故に、誤情報蔓延の起点になるのではという懸念も各所で生まれている。ChatGPTなど、最新情報のリアルタイム検索に対応していないサービスの場合は、ニュースの表示も不可能だったりする。

 

 Perplexityは、そうした生成AIの欠点をできるだけ排除し、従来の検索エンジンの機能向上版のような使い勝手を実現する。AIによるテキスト生成技術を用いて検索結果を要約する“回答エンジン”としての機能を前面に押し出し、評価を高めているサービスだ。一部ではGoogle代替サービスの本命になるのではないかとも言われ始めている。

 

Perplexityの画面(日本語でも使える)

 

CEOはGoogle出身

 

 Perplexityは、2022年8月に創業されたスタートアップ企業だ。Google出身のスリヴァスCEOのほか、4人の創業メンバーはいずれもGoogleやOpenAIなどでのAI事業の経験を持つ。創業のきっかけは、インターネット上の膨大な知識を効果的にアクセスし利用することの難しさに対する4人の問題意識だった。そして、自然言語処理(NLP)と機械学習(ML)技術を活用して、ユーザーの命令に対して正確で情報豊富な回答を提供することでGoogleを超える情報検索と利用の方法を革新することを目指し、Perplexityを立ち上げた。

 

 2024年現在、Perplexityは累計1億6500万ドルもの資金を調達しており、企業価値は10億ドルを超えている。 投資家には、Amazon創業者であるジェフ・ベゾスのほか、Nvidia、などそうそうたる企業・投資家が並んでいる。直近では最も注目をあつめているAIスタートアップの一つと言っていいだろう。

 

情報検索システムとしての使い勝手はピカイチ

 

 同社はその公式ブログの中で「Perplexityのミッションは、世界最高の回答エンジンを構築すること。これを達成するために、私たちは役に立つ、事実に基づいた、最新の情報を提供することに重点を置いている」。検索エンジンでなく、回答エンジンと規定しているが、サービスの最大の特長は「検索エンジン」「調査システム」としての使い勝手のよさ。検索エンジンの機能をAIで強化したらどうなるかというのが課題意識の中心であることは間違いないだろう。

 

 Perplexityの特徴はまず、インターネット上で公開されている最新の情報をリアルタイムで収集し、ユーザーの質問に対して最適な回答を提供する点。リアルタイムであることは大きな強みで、最新の動向もきちんと拾ってくる。

 

 また、英語で質問したときに特に顕著となるが、学術論文やLinkedInでの投稿など、出所や責任主体がはっきりするソースからの情報を広く集めてくる。実際、英語情報で検索してみるとLinkedInのコンテンツに予想以上に重要情報が混じっていることが分かる。Google検索にはでてこないリソースだ。学術情報なども充実しており、それぞれ多くのソースリンクを明示した上で、AIの力でそれらを手際よくまとめてくれる。深く知りたいときには追加質問したり、リンク先の元情報をたどるという使い方が基本だ。

 

 他の生成AIと同様Perplexityでも、検索の内容を変わるたびにスレッドが対話形式で作成される。ただ、Perplexityは質問の意味をはっきりさせるために補足の質問が自動的に返してくれるのがありがたい。課題を深掘りするために頭をひねる必要はなく、(深掘りの方向が違っているのでなければ)提示された質問のボタンをクリックして行くだけで、より深い回答が得られるように設計されている。

 

 PerplexityではOpenAIのChatGPT以外のさまざまなAI基盤が使えるのも特徴だ。たとえばAnthropicの「Claude」やMistralといったさまざまな企業のAIモデルが登録され、使用できる。生成AIはサービスによって使い勝手が大きく異なり、使い分けできることの意義は大きい。Perplexityを使えば、利用者は、自分のニーズに合ったモデルを選択することにより、精度の高い答えを得ることができるようになっている。

 

 Perplexity は、情報ソースをピックアップするため、自社の検索システムと外部の検索システムを統合し、場合によってサードパーティのデータも活用する形で、検索機能を強化している模様。統合することで、より包括的で正確な検索結果の提供を目指しているようだ。

 

 なお「回答」と「対話」はプロサーチ(無料契約では4時間ごとに5回までに制限)を使うとより高度になる。GPT-4やClaude3など最先端のAI基盤を使いながら、「本当に知りたいこと」を理解し、明確にしてくれるからだ。たとえば、法律文書から知りたい部分をピンポイントで探し出し、要約を示してくれるなどしてくれ、調査の労力がかなり低減される。

 

focus機能で目的を絞り込める

 

 おもしろいのは、「focus」機能により、用途を指定して目的に応じた使い分けをすることが容易になっている点。サイト全体を検索する「All」のほかに「Writing」「Academic」などの目的別検索が選べ、「Writing」では、インターネット検索を行わずにテキストやチャット形式で文章を生成。「Academic」ではネットに公開されている学術論文の検索結果とそこから導き出したまとめの出力をだしてくれ、「Wolfram Alpha」だと事実に基づいた質問に対して構造化されたデータを使用して計算・返答するサイト内での検索・・・といった形で回答の中身を簡単に指定できる。

 

 従来の検索エンジンの様に「キーワード」に関連する Webサイトの URL や画像を列挙するだけではない。「キーワード」に関連する情報を要約し、そのうえで引用や参照元の URL など 「根拠」を重要度順に提示してくれ、ユーザーが気づかなかったような質問を提示してくれ、よりきちんとした調査ができるよういざなってくれるという点はいかにも生成AI活用サービスらしいところといえる。

 

 他の生成AIが、動画やプログラム生成の自動化などに注力する中、検索エンジンが担ってきた役割に絞ってAI技術を使って対応することで差別化に成功している。Perplexityによると同社のアクティブユーザー数は、1月に1000万人からわずか、3月に1500万人に達したという。Googleの規模に比べられるような状況ではないが、着実に利用者を増やしている。

 

Elevenlaboと共同で開始した生成型Podcastingニュース

 

音声AI企業と提携、広告サービスも投入へ

 

 Perplexityは2月に、音声AIのElevenLabsと提携し、イノベーション、科学、文化の最新ヘッドラインを提供するポッドキャスト「Discover Daily」のサービス運用を開始した。ElevenLabsの自動音声技術とPerplexityの検索・コンテンツエンジンを融合させ、世界のニュースを入手できるAIサービスだ。

 

 4月末には、企業向けサービスのPerplexity Enterprise proを発表した。同時にStripe、Zoom、Bridgewater、Snowflake、Cleveland Cavaliers、Universal McCann、Thrive Global、Databricks、Paytm、ElevenLabs、HP、Vercel、Replitといった著名企業がPerplexityのエンタープライズ契約をし、使い始めていることも明らかにした。新たに調達した約6000万ドルの資金を基に、世界展開を今後本格的に始める方針だ。

 

 同社はまた、「次の四半期から」広告の販売を開始する予定。AI検索サービスにどのような広告が組み込まれるかが気になるところだが、報道した広告業界メディアAdweekによると、質問の候補として企業のサービスに触れるなどのネイティブ広告を考えている模様。ユーザーがトピックを深く掘り下げる中で、ブランド協賛の質問が混ざるというような形が考えられそうだ。リーチ数などの規模、ブランド安全、視聴者インサイトへのアクセス、ターゲティングの効果などは未知数だが、AI検索ならではのソリューションに期待したい。

 

Perplexityの広告事業進出を伝えるADWEEKの記事

 

次々生まれるAIエンジン使い分け型サービス

 

 同社はホームページの冒頭でそのプロダクトについて「Perplexityは情報を得る最速の方法です。世界中の誰もが、自分自身の方法で、自分自身の言語を使って、自分自身のレベルで何でも学ぶことができるようにするツールです。あなたが質問をすると、私たちは利用可能なすべての情報を取り出し、圧縮し、あなたと情報の間に橋をかけます(中略)Perplexityはあなたが使うツールであって、あなたが話しかけるAIではない。私たちはテクノロジーを擬人化するのではなく、あなたがそれを使えるようにします」と事業ポリシーについて説明している。主体が人間であること、ユーザーの好奇心を刺激し、知識を深めるという作業にいざなうことをミッションにしていることは他のAIサービスにはあまりみられない。

 

 ここにきて、Perplexityのような多数の生成AIプラットフォームの使い分けができるサービスが相次いで登場している。日本でもリートンのサービスが開始され、検索重視のYou.comも話題だ。一方で、ChatGPTも検索能力に優れたPerplexity対抗のAIサービスを検討しているとの噂も飛んでいる。検索エンジンとしてのAI利用の広がりはどんな方向に進むのか。検索エンジンが生み出したメディアや広告のエコシステムを引き継ぐのか、引き継がないのかは、生成AIとメディアとの連携の可能性についてひとつの試金石ともなりそうだ。