日本紙パルプ商事主催第2回フォーラム 紙卸商など約500人参集 紙流通業の未来に向けてアクションプラン始動

2023年11月16日

OVOL Bridges 2023~The 2nd Paper Merchants Forum~

 

 

 日本紙パルプ商事(東京・中央区)は10月27日、東京・千代田区のパレスホテル東京で「OVOL Bridges 2023~The 2nd Paper Merchants Forum~」を開催した。フォーラムには、紙流通業に関わる人々約500人が参加。セミナー、パネルディスカッション、座談会の3部構成でおよそ4時間に及ぶ議論が繰り広げられた。フォーラムでは、事前に行われたワークショップや一般消費者への調査で得られた課題が提示され、施策が具体的に示された。活発な議論を行うとともに、今後同社が紙卸商とともに進めていくアクションについて明確に宣言された。

 

第1部 経営者セミナー 課題解決、戦略について提案

 

 第1部では、紙卸商経営者に有益となる情報・機会の提供を目的として、各界から3名の有識者が招かれた。


 はじめに、日本総合研究所・翁百合理事長が登壇し、「日本の非製造業企業の抱える課題と今後の方向―生産性向上と人的資本経営」をテーマに講演。失われた30年ともいわれる日本経済と企業の現状に照らし、「卸売業の課題」として「一人当たりの生産性をどのように向上させていくか」をあげた。「成長や財務の観点から、人的投資は経営の要。人件費はコストと考えられていたが、実は企業にとって人は非常に重要な資産。急速な技術変化と人手不足のなか、リスキリング(人への投資、教育)の機会を提供することが、生産性の向上につながる。さらに、DX(デジタルトランスフォーメーション)・CX(コーポレートトランスフォーメーション)が、人材投資、賃金増加、人材定着の好循環を実現する鍵。DX・CX、事業連携により業界全体で変革を成し遂げていくことが大事」と語った。

 

日本総合研究所理事長 翁百合氏


 続いて、ソフトバンク・今井康之代表取締役副社長兼COOが登壇し、「デジタル化時代の紙卸商―DXがもたらす事業変革への道」と題して講演。「産業別の売上規模で、30年間で最大の減少幅になったのが卸売業。つまり今、最もDXが求められているのが卸売業」と指摘。そのなかで、卸売業のDXの成功モデルとして、2020年「DXグランプリ」を受賞したトラスコ中山の事例を紹介。「DXというと自社のなかでの効率だけを考えがちだが、メーカー、販売店、エンドユーザーを含め業界全体の利便性を向上させることが重要。たとえばアナログ業務やマンパワーに頼ってきた部分をデジタルに変革し、受発注システムの活用、データの蓄積による需要の予測など、ひとつのプラットフォームにして顧客目線の利便性を上げていく。そうしたDXこそが競争力強化につながる。あらゆる企業にとって、国の補助金制度などサポートがあり、デジタル化のハードルが低下している今がチャンスだ」とDX戦略の重要性を訴えた。

 

ソフトバンク代表取締役副社長兼COO 今井康之氏


 続いて、学研ホールディングス・宮原博昭代表取締役社長が登壇し、「事業承継問題とM&A経営 ~V字回復の道 バックキャストによる課題解決と目的達成」をテーマに講演。「自社が倒産寸前だった2010年に社長に就任し、内部改革、福祉事業への投資、M&Aへの取り組みを図った。すべては戦略(=ストーリー)、戦術(=キャスティング)、戦闘(=チームスピリット)という考えに基づいてのこと。なかでも、まずしっかりと戦略を作ることが重要」とがけっぷちの状況からの立て直しのヒントを語り、「日本の教育を支えているのは紙。出版社としても日本の紙の文化を守っていくために一緒に頑張っていきたい」と紙流通業界にエールを送った。

 

学研ホールディングス代表取締役社長 宮原博昭氏

 

第2部 パネルディスカッション 紙の機能・役割が生み出す価値の再認識

 

左から河出書房新社・小野寺氏、学研ホールディングス・宮原氏、デジタル・アド・サービス・村田氏、ハバリーズ・矢野氏

 

 第2部では、出版、教育、カタログ、パッケージ分野など紙に関わる4社の経営者が登壇。


 河出書房新社・小野寺優代表取締役社長は「本を読む時間はデジタル端末にごっそり持っていかれた。しかし、紙媒体にとってマイナス面だけではなく、新たなコンテンツを発掘する可能性も広がっている」と語り、紙の価値について「過去の優れたコンテンツはシンプルな紙だったからこそ時代を超え受け継がれてきた。また、紙の手触りや質感の魅力はデジタル化が進むほど見直されていくのでは」と分析。


 学研ホールディングス・宮原社長は「教育分野においては、GIGAスクール構想などデジタル化が進むなかで、紙じゃないとできないことも多い。とくに幼児教育には紙を使った学習が重要。また、記憶に残る〝モノ〟としての紙の価値も大きい。紙もデジタルも増やすかたちで共存を目指すべき」との考えを示した。


 デジタル・アド・サービス・村田尚武代表取締役社長は「紙は俯瞰性、デジタルは直進性に優れた媒体と解釈している。紙かデジタルかの二元論ではなく、それぞれのメリットを生かした使い分けが必要。本当に重要なのは、10年後、20年後の紙のユーザーをどう作るか。『紙育』を掲げ、文化や体験を通じて〝モノ〟としての紙の魅力に触れる機会を作っていきたい」と述べた。


 ハバリーズ・矢野玲美代表取締役社長は「日本初の紙パックウォーターを展開するにあたり、紙から紙への再生を可視化、環境課題とプロモーションを結びつけた。紙の環境優位性の発信を業界全体で取り組めば大きな流れを生み、リサイクルに対するアクションが加速する=紙の消費量も増えていくのでは」と語った。

 

第3部 交流座談会 紙の価値を広めるための取り組みについて

 

 第3部では、紙卸商各社経営者による交流座談会を開催。紙ビジネスの未来のために、紙流通業界に必要なこと、その活動について各社の取り組みを語った。

 

(右手の登壇者)左からレイメイ藤井・藤井氏、アクアス・大河内氏、永井産業・永井氏、大丸・藤井氏、中庄・中村氏、日本紙パルプ商事・渡辺社長

 

 レイメイ藤井・藤井章生代表取締役社長は「紙は、人間ならではのクリエイティブな発想を生むもの」として「紙の新しい活用アイデアである紙製ギフトフラワー『スーパーフラワー』を展開。スーパーフラワー協会を設立し、作り手の育成にも取り組んでいる」と自社の取り組みを紹介した。


 アクアス・大河内泰雄代表取締役社長は「紙は使用後リサイクルすることで生まれ変わることができるサステナブルな素材。しかし、一般には紙素材の環境に対する優位性の理解が低い。理解を深めるために、義務教育のなかで環境教育の一環として紙について正確な知識を学んでもらう機会を作るのが重要では。当社でも、小学生向けに倉庫見学を企画。また、地元のクリエーターとコラボし、紙を使った、新しく役に立つ商品を新たに生み出し、販売を目指している」と話した。


 永井産業・永井敬裕代表取締役会長も同様に、「一般的には環境に悪いという誤解が根強い紙の環境優位性を周知させる努力が必要。今後の取り組みとして、姫路市内で紙の常設展示スペースを開設、紙の魅力を発信しようと企画している」と語った。


 大丸・藤井敬一代表取締役会長は「若い世代のデジタル志向が進み、紙の使用量については拡大が期待できないなかで、建築や衣類などの分野で新規利用開発が進められることを望む。また紙の環境優位性を訴え、取り組んできた再生PPCやFSC商品、ISOなどのPR、販売を引き続き促進していきたい」と述べた。


 中庄・中村真一代表取締役社長は「書籍であれば著者の思い、パッケージであればデザイナーやメーカーの方の思い。人それぞれの思いが形になる、それが紙の特性」として、「その発想に基き、子どもたち向けに『チョキぺタス』という工作室を定期的に開催している」と取り組みを紹介。


 また、日本紙パルプ商事より、フォーラムに先駆けて、新たな活動のひとつとして同社社員と紙卸商11社の社員によるワークショップを実施し、紙流通業として未来に向けてチャレンジしたい具体的なアクションプランを考えたことを報告した。


 日本紙パルプ商事・渡辺昭彦社長は「私からとくに付け加えたい紙の価値として、①所有欲や収拾欲をくすぐる〝モノ〟としての紙製品の存在感、②二次元世界のデジタル画面に対する三次元の紙製品の存在感、③紙に印刷された情報の信頼性と安心感、④内包物の高級感や信頼感・安心感を想起させる包装資材としての紙」と語った。


 さらに、今後同社が紙卸商各社とともに行っていく取り組みとして「紙の魅力を伝える出前教室の全国展開」「ワークショップの定期開催」「紙の価値普及に向けた研究会の発足」の3つの取り組みを表明した。


 最後に、渡辺社長は「我が国の紙の需要規模は今でも世界3位の規模。我々紙流通業界が共通認識に基き、一丸となってアクションを起こすことで、世の中に埋もれている紙の潜在需要や新たな用途を開拓していくことができると信じている」と締めくくった。

 


〈渡辺昭彦代表取締役社長 メッセージ

 

紙流通業界全体のプレゼンス向上に向けて、紙卸商とともに具体的アクション起こす

 

 

 日本紙パルプ商事は1845年の創業以来一貫して紙類の流通に携わってきました。2010年頃より紙に関わる領域で多角化を進め、現在は、①国内紙卸売(一次流通)、②海外紙卸売、③製紙加工、④環境原材料、⑤不動産賃貸を柱としています。


 人口減少・少子高齢化、デジタル化を主要因として出版・商業印刷用紙の需要は2000年代中盤をピークに毎年縮小を続けています。この傾向は近々底を打つと思われますが、当時の水準に戻ることはないでしょう。また、全国の紙卸商(二次流通)は弊社以上に歴史の長い会社が多いですが、なかには事業承継や人材の確保、DXの推進などの課題を抱えている企業も少なくないと思われます。こうした紙流通業界の共通問題に関して、有用な情報とともに考えていくきっかけを提供することで業界全体の底上げを図りたい。そして弊社最大の財産である全国の紙卸商の方々とのネットワーク・信頼関係をさらに大切に、何らかの付加価値をフィードバックしていきたい。こうした思いから、このたび「OVOL Bridges 2023~The 2nd Paper Merchants Forum~」を開催いたしました。


 第1部では経営者セミナーとして、日本総合研究所理事長・翁百合氏「日本の非製造業企業の抱える課題と今後の方向―生産性向上と人的資本経営」、ソフトバンク代表取締役副社長兼COO・今井康之氏「デジタル化時代の紙卸商―DXがもたらす事業変革への道」、学研ホールディングス代表取締役社長・宮原博昭氏「事業承継問題とM&A経営~V字回復の道 バックキャストによる課題解決と問題達成」の3本で問題提起と解説をしていただきました。


 第2部はパネルディスカッション「紙の機能・役割が生み出す価値の再認識」として、宮原氏には第1部から引き続きご登壇いただき、河出書房新社代表取締役社長・小野寺優氏、デジタル・アド・サービス代表取締役社長・村田尚武氏、ハバリーズ代表取締役社長・矢野玲美氏に、紙が持つ価値や新たな活用例など、さまざまな角度から話し合っていただきました。


 第3部は交流座談会「紙の価値を広めるための取り組みについて」。ここで、あらためて私の考える紙の価値・特性を提示しておきましょう。


 それは、①所有欲・収集欲をくすぐる「モノ」としての紙製品の存在感(書籍・雑誌・レコードジャケット・切符や切手・ポスター・パンフレットなど)、②二次元世界のデジタル画面とは異なる、三次元としての紙製品の持ち味(実際に手に取った時の感触など)、③情報の信頼性・安心感(しばしばフェイクが横行するデジタルと印刷物を比較して)、④ブランド品に代表される内包物の高級感・信頼感・安心感を想起させる素材であることです。


 実はフォーラム開催に先立ち、ふたつの取り組みを進めていました。ひとつは、一般消費者への紙に関する意識・知識のアンケート調査。この調査結果は、かなり衝撃的なものでした。何故なら、書籍など出版物による紙の違いへの関心は低く、紙の環境優位性を知らない消費者も相当数いることがわかったのです。しかし見方を変えれば、我々がこれから何をするべきかはっきりしているという意味では明るい材料かもしれません。それこそが、まさに一般消費者に向けた「紙の価値を広める」ことなのです。


 そしてもうひとつは、弊社の若手社員と全国の紙卸商数社の若手社員でのワークショップです(2回開催済)。紙の価値をあらためて自分たちなりに考察し、その普及のための意見やアイデアを出す。ここで出たアイデアをブラッシュアップし、弊社の行動施策に盛り込んでいくことを目的としています。


 これらを踏まえて弊社は今後紙卸商各社とともに、次のような活動を展開していきます。


①学生を対象とする、紙の特性・魅力を伝える出前教室の開催
 今回の若手社員ワークショップで出たアイデアを基にしており、開催にご協力いただける紙卸商を募って地域ごとに年1~2回実施できたらと考えています。


②若手社員対象ワークショップの継続的開催
 社内・業界内の次世代を担う若手社員の挑戦を全力で応援すべく、毎年開催。全国の紙卸商と弊社とでともに紙の価値や新たな用途を考え、先々の施策実現に繋げます。


③紙の価値普及を目的とする研究会の立ち上げ
 業界各社にご参加いただき、広報宣伝活動、マーケティング、エコロジー活動など、広く社会に向けて紙そのものの存在感を高めるための効果的な手段を検討・実現していく。


 こうした活動も交えて業界一丸となった具体的なアクションを起こし、世の中に埋もれている紙の潜在需要や新たな用途の開拓を通して、業界全体のプレゼンスや地位、そして魅力の向上を図りたい。そのために、弊社も微力ながら貢献していきたいと考えております。