創元社 来年4月に若者向けの人文書シリーズ「あいだで考える」を創刊

2022年12月21日

 創元社(大阪市・矢部敬一社長)は来年4月、10代を中心読者としつつ、すべての年代を対象とする人文書の新シリーズ「あいだで考える」を創刊する。

 

 近年、LGBTQやSDGs、利他などの考え方が広まり、他者との共生意識が高まる一方で、コロナ禍や戦争など様々な社会的分断が見受けられる。とくに、10代の若者は先の見えない将来に不安を感じ、置かれた環境によって視野が限定され、生きづらさを感じている。

 

 同シリーズは、他者とより良い社会を築くには、白でもなく黒でもないグラデーションを認め、葛藤を抱えながら「あいだで考える」ことが重要であるというコンセプトのもと、物事のあいだに立ち止まって考えることで多様な価値観に気づき、楽になったり、別の視点で考えられるようになったりする入り口となることを目指している。10代の現実に関わっているであろう問題をテーマにしているが、幅広い世代が自分事として関心を持つことができる内容という。

 

 著者は、社会で常識とされていることを問い直している人、実際に自分と異なる価値観、異文化の中に身を置いてきた人を選び、正解のない問いを読者と一緒に考えていくことを重視している。

 

 

 

 第1弾は4月10日刊行の2作品。『自分疲れ―ココロとカラダのあいだ』(頭木弘樹)は、難病の当事者で文学紹介者として活躍する著者が、闘病と回復の実体験に基づきながら、心と体の関係性を深く考察する。

 

 自分自身でいることに疲れ、馴染めないでいる人たちに向けて、文学を中心に多彩なジャンルの作品を取り上げながら心と体の関係を考えることで、読者が「私だけの心と体」への理解を深める一助となる一冊。

 

 

 

 『SNSの哲学―リアルとオンラインのあいだ』(戸谷洋志)は、10代の生活に溶け込んでいるSNSの「ファボ」「黒歴史」「#MeToo運動」など、さまざまな現象を哲学の視点で捉え直す。SNSによって成り立つ日常が、自分自身にとってどういう意味を持つのかをリアルとオンラインのあいだに立ちつつ考察する内容で、哲学によって考える楽しさや大切さを実践的に示している。

 

 両作品とも四六判変型、160㌻、1540円(税込)。

 

 以降は2カ月に1作品ずつの刊行で、著者はロシア文学研究者で翻訳家の奈倉有里さん、作家・翻訳家の田中真知さん、生物・社会学者、思想家の最首悟さんほかを予定している。

 

 同社編集局の内貴麻美さんは書店に向けて、「実績のある著者なので、既刊本との併売をお勧めする。他社からも若者向け叢書刊行が増えているので、中高生向けコーナーでの併売もお願いしたい。各巻末にはさらに興味が広がる関連作品を掲載しているので、これらとの店頭フェアもおもしろいのでは」と推奨。すでに書店サイドからイベントの提案なども届いているという。【櫻井俊宏】