第35回「三島由紀夫賞」「山本周五郎賞」 第46回「川端康成文学賞」贈賞式開く

2022年7月4日

 第35回「三島由紀夫賞」と第35回山本周五郎賞(ともに新潮文芸振興会)、第46回「川端康成文学賞」(川端康成記念会)の贈賞式が6月24日、東京都内で開かれ、三島由紀夫賞に選ばれた岡田利規「ブロッコリー・レボリューション」(「新潮」令和4年2月号)、山本周五郎賞の砂原浩太朗『黛家の兄弟』(講談社)、川端康成文学賞の上田岳弘「旅のない」(「群像」令和3年5月号)がそれぞれ表彰された。

 

左から砂原浩太朗さん、岡田利規さん、上田岳弘さん

 

 冒頭、新潮文芸振興会の佐藤隆信理事長があいさつ。「ブロッコリー・レボリューション」は「文章が少し読みづらく、だからこそそのもどかしさが、読み手として作品と気持ちがリンクすることになり、理解できた」と、『黛兄弟』は「最後の方の兄弟のセリフが決まっていて、非常に痛快である」と話し、「三島賞・山本賞らしい作品を選んでいただいた」と太鼓判を押した。

 

 三島賞の選考委員を代表して登壇した高橋源一郎氏は、劇作家として活躍してきた岡田氏が初めて発表した『わたしたちに許された特別な時間の終わり』(新潮社)の書評を、「一番早く書いたのは自分であろう」といい、「以来、早く岡田利規の小説を読みたいと待ち続けて15年が経ってしまった」とユーモラスに語った。

 

 そして、「受賞作は読めば読むほど、作品の迷宮の中を歩いていくような気がする。読者は読んでいると、『これは我々人間が生きている存在そのもののことを書いているのではないか』というふうに思うようになりそうで、岡田氏のメッセージは言葉で簡単に取り出すことはできない」と紹介した。そうした力強い作品を生み出した岡田氏に、「次の作品は、できたら僕が生きているうちに書いてください」と最上級のエールを贈った。

 

 それを受けて、「次はいつになるかわからないので、ぜひ長生きしてください」と答えた岡田氏。「小説を書くという行為は、自身にとって愉悦であり、誰とも共有されない、自分だけしか経験しないことを持つことを、私は希求している」と語った。

 

 山本賞の選考委員を代表した伊坂幸太郎氏は、「候補作の中で1作を選ぶなら、この砂原さんの作品だと思っていた」と評価。シリーズ前作の『高瀬庄左衛門御留書』も、前回の山本賞最終候補だったが、前作以上に「文章が気持ちよくて、情景描写もていねい。何よりストーリーがエンターテイメント。佇まいはすごく静かな小説だけれど、サービス精神にあふれていて、惜しげもなく展開が考えられている」と絶賛した。

 

 砂原氏も、前回最終候補になったことが大きな糧になったと語った。好意的な選評を支えに、この1年頑張ってきたからこそ「同じ方々に今年選んでいただいたことが一層嬉しい」と、笑顔を見せた。そして、「ビルドゥングスロマン(成長小説)の信奉者」を自認する同氏は『黛兄弟』を、「少年が青年から大人へと変貌を遂げていく王道のビルドゥングスロマンだ」とした。今後も、「面白く読んでいただいた後で、何か人生の奥行きのようなものが読者の心に残れば、作者としては本望」と結んだ。

 

 川端賞の選考委員を代表した荒川洋治氏は、受賞作の「旅のない」が「登場人物のやりとりの中にさまざまなことが入り込み、それがもつれながらどんどんフレームが変わっていく不思議な小説」とコメント。「『感じる』ということを取り扱う、ひとつの新しいステージを示した」と評価。「人間の感じ方を、非常に優れた方法で広げた作品であり、心動かされる新しさがある。川端康成没後50年という記念すべき年に賞をあげることができた」と喜んだ。

 

 上田氏は、「今作は自分の普遍性を保ちながら、2020年の現場レポートに徹した作品集だ」とした。上田氏は自身が1979年生まれで、「99年に恐怖の大王が舞い降りてきて世界を滅ぼすという『ノストラダムスの大予言』が非常に印象深い世代」と述べ、「2020年という音の響きにも同じように、何か起きるんじゃないかという予感を抱いていた」という。「パンデミックが終わったら、また再読いただけると、違った面白みを感じていただけるんじゃないか」と語った。

 

 最後に登壇した川端康成記念会の川端あかり理事長は、自身の祖父・川端康成の没後50年という節目に、さまざまな動きがあったことを報告。選考委員のひとりである辻原登氏などが新たに解説を書き下ろしてカバーを刷新した文庫が刊行されたこと、日本近代文学館での大規模な展示に続いて、秋には内容も変えながら神奈川近代文学館、富山県の高志の国文学館で文学展が予定されていることを紹介した。今後も、「さまざまな資料の体系的な管理をして次世代に託していきたい」と締めくくった。