【寄稿】あやべ市民新聞社・髙崎忍社長「活字文化を守れ!」 地域紙の明日を考える研究会立ち上げ

2022年1月31日

 私は「団塊の世代」で、半世紀前に新聞の世界に入った。鉛活字で新聞を作る時代から知っているが、近年の新聞の経営環境は厳しすぎる。ネットメディアの隆盛、スマートフォンの劇的な普及が全てを物語っている。マスメディアが存亡の危機に瀕していると言って過言ではない。

 

 新聞など活字文化の消滅の危機を免れるには、まず原因を知ることから始めるべきだ。今や誰もが手にするスマートフォンの圧倒的な存在感は絶大。なかでも若者は肌身離さず携帯し、ほかのことが入り込む余地はない。

 

 若者にとってスマートフォンは「第二の自分」なのだろう。記録や記憶、感動、知識、コミュニケーション、検索、創造といった、おおよそ人間のすることをほとんど担う。

 

 

あやべ市民新聞社と京都の学生たちとのズームでの会議風景

 

 弊社は最近、京都の大学生らと「地域紙の未来」や「ネットメディアの本質」などについて語り合っている。そこで知るのは若い世代のナマの姿。まず、大量の文字がズラリと並ぶと拒絶反応を起こす。活字があふれた新聞紙面など、見た瞬間に「アウト」だ。

 

 ショートコンテンツや直感的コンテンツに慣れきっているから、じっくりと腰をすえて一つのことに集中できない。Twitter、TikTok、instagrm、YouTubeなど、すべてコマ切れなのだ。「ながら」の常態化とも言える。

 

 若者は、新聞を「総花的」と感じている。自分にとって興味がなく不要な内容が多すぎるのだ。新聞の特長である「幸運な偶然の出合い」の大切さを知らない、または気づいていない。情報にお金を払うのを嫌うのも特徴。自分にとって真に有用と思う情報以外は無料で済ませたい。

 

 このため一次情報を得ることの難しさや意義を理解していない。裏付けのない情報の怖さも、まだ分かっていない。そんな状態だから「情報強者」が意のままに情報操作できる状況を想像できない。

 

 現在の情報社会では大手紙、テレビとも情報の質が低いものが多いと、若者を始め多くの信頼を失っているのではないか。特に若者たちは物心がついた時からネットの即時性を肌で感じて育ってきたため、日刊紙も含む新聞の情報伝達のスピードが遅すぎると感じている。地域紙が大切にしている「地域、地元への興味と関心」も持っていない。

 

 現状や原因は分かった。では地域紙は、どうすればよいのか。そこで弊社は社内で徹底的に討論をしたあと、地域紙仲間に呼びかけて先頃、「地域紙の明日を考える研究会」を立ち上げた。

 

 

デジタルネイティブに「歩み寄る」「啓発する」

 

 

 内陸地方で長年にわたり地域紙を発行する5社の社長と、担当社員ら計15人が出席した第1回研究会では、このままでは早晩、消滅しかねない全国の地域紙の未来を切り開くため弊社が考えた試案を会議の俎上に載せた。

 

 

地域紙5社の代表ら15人の会議であいさつをするあやべ市民新聞社・髙崎忍社長

 

 その内容は、今後開拓したい購読層を「新聞を読む習慣がない、あるいは新聞を購読した経験がないデジタルネイティブの20~40代」とし、これらのターゲットに向けた二つの方向性=①合わせる(歩み寄る)②知らしめる(啓発)=を同時進行させるものだ。

 

 「合わせる(歩み寄る)」は、コンテンツの届け方(作法)。仮にスマートフォンのアプリを我々独自で開発して闘うなら、▽ショートコンテンツ化▽写真やビデオの多用▽シェアを可能に▽検索機能を充実▽記事への「いいね!」やコメントを可能に▽読者にカスタマイズした記事のセレクト…といった具合だ。

 

 地域紙らしさを失わずに若年層に合わせる際のコンテンツは、▽生き方▽子育て▽チャレンジ▽環境▽安全な食▽地縁▽丁寧な仕事▽映え(シズル感)…。こうした若年層に支持されるコンテンツを徹底的に調べることだ。

 

 「知らしめる(啓発)」とは、効果的な方法で繰り返し伝えること。

 

 ▽報道機関の消失は確かな一次情報の消失を意味する▽報道機関が消滅すると、強者が情報を容易に操れる環境を招く▽ネット情報に依存すると情報取得の幅を狭める▽情報取得の幅が狭まると、情報の真贋を見極める能力が育たない▽「知りたい情報」と「知るべき情報」は違う▽ネット上の確度の高い情報ソースは報道機関が発信元になっている▽ネットには表現・言論の自由の保障はない。

 

 

「全国の地域紙で統一キャンペーンを」

 

 

 こうした啓発を、全国の地域紙が意思一致して長期キャンペーンを行えば効果的だ。これらのメッセージをビデオ化してSNSで粘り強く訴える。小中高校で定期的に流してもらったり、大学で問題提起として議論してもらうのも有効だろう。

 

 問題は自前のアプリを単独開発するか、地域紙連携で開発するか。単独なら費用負担が重いが、意思決定と開発期間が短縮できる。逆に連携なら、費用負担が分散できて技術革新が容易になるが、意思決定が遅れたり、開発が長期化するのが欠点だ。

 

 最後に「課金」の方法だが、若年層は課金には極めて慎重で、有料アプリには見向きもしない。そこで我々が考えるのは「親世代が子世代に代わって支払う」方法。健全な情報環境を守る意義を訴え、ドネーションを募る方法はどうだろうか。多くの方々のご意見を拝聴したい。