盛岡市で新聞大会 新聞協会賞など授賞記者らがスピーチ ジャーナリズムへの思いなど語る

2021年12月7日

 日本新聞協会の新聞大会は11月17日、岩手県盛岡市で開かれ、式典では新聞協会賞、新聞技術賞、新聞経営賞の授賞が行われた。受賞した各氏はそれぞれスピーチを行い、取材の経緯や苦労、思いなどを熱く語った。その概要を紹介する。

 

●新聞協会賞

 

▽LINEの個人情報管理問題のスクープと関連報道=朝日新聞社 東京本社編集局編集委員 峯村健司氏

 

 私が今回取り組んだのは「IT国際調査報道」。つぶさに現場の聞き込みをするように、ネット上を調べたり、通話アプリなどを使って取材対象者にあたるやり方だ。
 一連の取材で感じたことは、巨大プラットフォーマーという巨像と、内部のずさんな管理体制という大きなギャップだった。
 今や大きな権力を持つプラットフォーマーと、世界のメディアはどう向き合うかが、大きな課題になっている。今回の報道が、日本メディア全体がプラットフォーマーとの関係性を考えるきっかけとなり、IT国際調査報道がより普及していくことを願っている。

 

 

地域の課題解決が地方紙の役目

 

▽愛知県知事リコール署名大量偽造事件のスクープと一連の報道=中日新聞北陸本社 編集局報道部長(前名古屋本社編集局社会部次長) 酒井和人氏

 

 今年2月、オンデマンド調査報道「JOD(ジャーナリズム・オン・デマンド)」の枠組みで、西日本新聞社からの情報を見たときの驚きは、今もはっきりと覚えている。それをきっかけに当社の記者たちが、一生懸命に取材を重ねていった。私たち新聞ジャーナリズムが培ってきた地道な作業を、ひたすら繰り返してきた。
 今回は、そういった古くさいと言われてしまいがちな取材手法と、JODという新しい手法のハイブリッドによってもたらされたスクープだった。

 

西日本新聞社 編集局クロスメディア報道部デスク 竹次稔氏

 

 今回の情報提供が寄せられたのは、当社が18年1月から始めたオンデマンド調査報道「あなたの特命取材班(あな特)」。今ではオンデマンド調査報道に取り組む地方メディアが増え、地方紙を中心に全国29媒体と連携協定を結んでいる。
 「あな特」という受け皿とJODの連携という二つがなければ、今回の問題の真相究明が遅れていたかもしれない。日々寄せられる情報提供の中から一つでも多く記事化して、それを読んだ人から次の情報をいただく。そういった循環を通じて、地域の課題解決をしていくことが、地方紙である私たちの役目だと考えている。

 

▽「ぬくもりは届く」~新型コロナ防護服越しの再会~=毎日新聞東京本社 北海道支社報道部写真グループ 貝塚太一氏

 

 未知のウイルスがまん延する中、会いたくても会えない人たちが多くいる。その現実を写真で表現したいと考えた。しかし、病院も葬儀場も取材許可はすぐにおりなかった。ようやくできた取材で、写真と動画で撮影にのぞんだ。今となっては少し大げさにも見える写真だが、一つの記録写真として意味があると感じている。
 写真・映像は岐路に立たされていると思う。誰もがスマホを持ち、ニュースの最前線で撮った写真や動画が一気に世界をかけめぐる時代になった。今、写真記者には独自の切り口で報道していく視点や、ドキュメンタリー報道への要求がますます増えていくと感じている。時代を記録していく使命を自覚しながら、被写体の心情に寄り添い、見た人の心に届く写真をこれからも求め続けていきたい。

 

▽NHKスペシャル「緊迫ミャンマー市民たちのデジタル・レジスタンス」=日本放送協会 放送総局大型企画開発センターチーフプロデューサー 善家賢氏

 

 番組が完成するまで試行錯誤を重ねた。ミャンマーの情勢を正確に把握できなかったが、注目したのがSNSに投稿されていた無数の動画だった。1000本以上の動画や写真を集め、これらを徹底的に検証して弾圧の実態を浮かび上がらせた。いわばインターネット時代の「デジタル調査報道」と言えるだろう。
 また、動画をアーカイブ化して世界に発信する取り組みも継続している。これからも新たなテレビジャーナリズムの可能性に挑戦し続け、ミャンマー情勢を伝え続ける決意だ。

 

歩みを止めず伝え続ける

 

▽「東日本大震災10年」=河北新報社 編集局報道部長 今里直樹氏

 

 デスクから新人まで、100人を超える記者が震災10年報道に携わった。今回の報道の原動力は、被災地の新聞社の責務を果たすということだった。そして、自分たちの手で未曽有の災害の10年史を歴史に深く刻むという信念だった。
 その思いや価値を、多くの同業者の方々が共感していただいたことと受け止めている。
 被災地に立つ新聞社として、歩みを止めず伝え続けていく。災害によって無念に散っていく命を、一つでも減らすために私たちの報道が役立つことを願っている。それができるのが新聞の力だと信じている。

 

▽連載企画「追跡・白いダイヤ~高知の現場から~」=高知新聞社 編集局報道部長 池一宏氏

 

 高値で取引され「白いダイヤ」とも呼ばれるシラスを巡っては、密漁や闇流通が横行し、暴力団の影もちらつく。取材班はその実態に迫ろうと、足かけ5年にわたる取材を続け、今年1~6月に採捕、流通、規制の3部構成の連載(計39回)を展開した。取材をしていると、多くの人が口をつぐんだり、「やめちょけ」と言われた。それでも取材班は地道に現場を回った。
 今回の連載は、ビッグニュースでもスクープでもない。地道な取材を記録したルポだ。地方紙に身を置く一人として、地域密着の「ローカリズム」と、社会問題を追求する「ジャーナリズム」の両立を目指していた。現場記者の丹念な取材で、その理想が実現したような気がしている。

 

夢の「AI輪転機」へ連携を

 

●新聞技術賞

 

▽「スマートファクトリー~『見える化』で新聞の未来を拓ひらく~」=中日新聞社 名古屋本社技術局印刷技術部部長 松山哲史氏

 

 今回、働き方改革や人員減など、印刷工場が抱える課題に対して、一つの解決策を示すことができたと考えている。
 スマートファクトリーは、データに基づき新聞印刷を見える化することにこだわった。最初は何から手をつければいいか悩んだが、若手を中心にアイデアを出し合い、議論を重ね、これまでの研究を形にした。チーム全体の成長と、技術力の向上を実感できた。
 高齢化や人員減などに対応した、持続可能な新聞印刷の環境を整えていくことができた。
 輪転機の予測制御や予防保全、自動運転も可能にする「AI輪転機」は印刷工場の未来を開くカギだと言われている。今回の取り組みで得た知見、経験、ビッグデータを積極的に見える化していくつもりだ。志を同じくする全国の新聞社と連携して、AI輪転機の実現に向けて尽力していきたい。

 

●新聞経営賞

 

▽「地エネの酒for SDGsプロジェクト」=神戸新聞社 経営企画局経営企画部専任部長編集委員 辻本一好氏

 

 私は経済記者として3回、農林水産業を担当してきた。その後、東日本大震災と福島の原発事故後、エネルギーや地球環境問題の社説やコラムを書いてきた。そこから地域のエネルギーと資源循環の視点を得るようになった。
 今回の取り組みは、この二つの経験から得たローカルSDGsコンテンツの発想と、隣にいる三宅氏のハングリーなビジネスマインドの結晶のようなものだ。
 これからの新聞社は、価値のある情報コンテンツを作り、それに共感できるアウトプットを増やし、地域のプレーヤーがつながるプラットフォームを作ることが必要ではないか。地方紙は地域が持続可能なデザインを描くために、最も重要なポジションにいるプレーヤーだと考えている。

 

メディアビジネス局イノベーション・パートナー部 三宅秀幸氏

 

 田植えや稲刈り、酒造りに、新聞人として伴走し、営みを知り、体験して、情報を整理して伝えていく。地域の人として新しい日本酒が実現できたことを、このように評価してもらったことは、チームの大きな喜びだ。
 私も地域と生きる新聞社の人間として、受賞を新たな一歩として事業をさらに進めていきたい。海外にも広げて、商業ベースに乗せていくことが、地域の持続、継続に大事なことだと思っている。地域を潤し、活性化を目指していきたい。