文化通信社 創業75周年記念シンポ 平井デジタル改革担当大臣と神戸新聞社・高梨社長 デジタル社会での地方メディアの役割語る

2021年8月24日

「デジタル社会における地方創生と地元メディアの役割」

 

創業75周年記念シンポジウムの会場の様子

 

 文化通信社は7月5日、創業75周年記念シンポジウム「デジタル社会における地方創生と地元メディアの役割」を東京・千代田区の神田明神文化交流館「EDOCCO STUDIO」で開催した。当日の模様はオンラインでもライブ配信され、平井卓也デジタル改革担当大臣と神戸新聞社・高梨柳太郎社長が登壇し、キャスターでエッセイストの南美希子さんが司会を務めた。平井大臣は地域に密着した新聞社の将来について、今後も地元からの「信頼」が重要になることを指摘した。

 

平井デジタル改革担当大臣

 

 南 さて、いよいよ9月1日にデジタル庁が発足します。デジタル担当大臣に就任以降、とてもお忙しい日々だと思います。

 

 平井 9月1日に発足するデジタル庁は、行政のデジタル化を進める司令塔となり、マイナンバー(社会保障・税番号)制度の活用や、情報システムの効率化を目指します。この創設にあたっては、ゼロからのスタートでしたが、スピード感を持って進めてきました。特に関連法案の成立では、各省から来た法案担当の皆さんや各党に協力していただきました。デジタル化の方向性が固まり、非常に嬉しいところです。

 

  高梨社長はデジタル庁にどのような期待をされ、課題をどう見ていらっしゃいますか。

 

神戸新聞社・高梨社長

 

 高梨 デジタル庁の創設などを盛り込んだデジタル改革関連法では、バラバラだった地方自治体の情報システムを2025年度末までに統一させる目標が掲げられています。その現場となる各地方での取り組みが今回のデジタル庁の一つの大きなポイントになるだろうと思います。

 

 また、一昨日に静岡県熱海市でも土石流の大災害がありましたが、今や全国で地震、豪雨など自然災害が多発しています。そういった災害時の危機対応にもデジタルは役立つと思いますので、そういったことも求められていくのではないでしょうか。

 

 一方で、個人情報の問題が指摘されています。個人情報の保護については、国に先駆けて自治体で取り組んでいる例が多くあります。平井大臣もそこのところはよく指摘されており、個人情報の利用と保護のバランスが大切だとおっしゃっています。ですから、平井大臣の進め方の一挙手一投足が、注目されていると思います。

 

 平井 今、高梨社長が指摘されましたが、いわゆる個人情報保護の「2000個問題」は課題です。デジタル化を進めるにあたって、個人情報の保護やプライバシーの問題はとても重要だと考えています。個人情報保護委員会の権限と能力の強化は、もう待ったなしでしょう。

 

 個人情報保護委員会は私の指揮下にあるわけではありませんので、逆に私を含めて厳しくチェックしてもらわなければならないということで、これから予算も人員も拡充していくことになります。もう一つ、これまでバラバラだった地方の条例の整理をしていくうえで、おそらく地方自治体との人的交流のようなことが今より進むと思います。

 

 また、海外とのデータ連携というものが非常に重要です。例えば、欧州連合(EU)の包括的な個人情報保護ルールである一般データ保護規則(GDPR)との対応があります。さらに、アメリカなども含むCBPRもあり、アジアの国々との国際間の情報のやりとりに対するルールみたいなものも、きっちりと進めていかなければいけません。

 

平井大臣「紙の良さ、デジタルの良さある」

 

 

司会を務めた南さん

 

  さて、文部科学省が推進するGIGAスクール構想に関連して、教科書のデジタル化に関する議論も進んでいます。平井大臣はどうお考えでしょうか。

 

 平井 学習者用デジタル教科書を、紙の教科書のように無償給与の対象とするか否かについては今、紙の教科書とデジタル教科書との関係と併せて検討・調整しているところだと思います。私自身は、紙には紙の良さがあり、デジタルにはデジタルの良さがあると考えています。人間のインターフェースはアナログですから、やはり書いて覚えなきゃいけないというものも、絶対あると思うんです。ですから、そこはうまくやっていかなければなりません。

 

 ただ、OECD加盟国の中で、デジタルの利用は、日本は最も低い。これも後発ですから、日本流にうまく、子どもたちにとってベストなハイブリッド型をつくっていくということが、最も重要ではないかなと思っています。

 

 私が全国の教育委員会の皆さんにお会いするたびにお願いしているのは、せっかく小中学生に1人1台のパソコンやタブレット端末を配備しているのに、その運用の仕方がバラバラなことです。「学校から帰る時には、ちゃんとロッカーに入れて充電して帰りなさい」という学校もあれば、「家に持って帰ってもいい」という学校もあります。文房具なんだから、自由に使ったらいいよというところもあります。

 

 皆さんは「壊れたらどうするか」などと心配していますが、私は単なる文房具だと思って、もっと使ってもらったほうがいいと思っているんです。家に持ち帰るもいいし、塾に持っていってもいい。壊れたら新しいものに取り換えたらいいと思っています。

 

 ですからちょうど今、生徒や保護者、そして教育現場の皆さんにアンケートを取り始めたところです。学んでいる側の彼らがどう考えているか、スチューデントファーストで考えることは当然ですので、学んでいる皆さんが最もやる気の出る方法を考える時ではないかと思っています。

 

  それでは、今回のメインテーマであります「デジタル社会における地方創生と地元メディアの役割」にお話を移してまいります。まず、コロナ禍で地方メディアがどういった状況におかれたのか。神戸新聞の事例や取り組みを教えてください。

 

 高梨 昨年、最初の緊急事態宣言が出された際には、幅広くさまざまなところに休業要請がかかり、地元の経済も急ブレーキがかかりました。新聞メディアでいうと、広告や折込チラシに大きな影響が出ました。また、グループ各社も大きく影響を受けました。不動産業、旅行、出版、カルチャーセンターなどです。

 

 一方で、これは全国的な傾向ですが、外出自粛や巣ごもりということで、デジタル部門でニュースメディアのページビューが一気に伸びました。これは、全国の新聞社と同様、神戸新聞でも同じことが起こりました。

 

 私たち神戸新聞・デイリースポーツでは、デジタル媒体「神戸新聞NEXT」「デイリースポーツ・オンライン」「まいどなニュース」を持っていて、今年4月にも4つ目となるサブカルチャーやエンタメに特化した総合情報サイト「よろず~ニュース」を創設しました。

 

 昨年4、5月のコロナ禍では当時3媒体でしたが、神戸新聞・デイリースポーツのデジタル収入が、過去最高の月間売り上げを更新しました。そして、1年を通してデジタル収入が紙の新聞の広告収入を上回ったという状況でした。とりわけ「デイリースポーツ・オンライン」はページビューが大きく伸びて、広告モデルのサイトとしてコロナ禍での収入を下支えしてくれたと思っています。

 

 もう一つ、これはコロナ禍の前に始めたことですが、2019年12月にデジタル新社「ジェッソ」を設立しました。5G時代に対応し、グループ全体のデジタル事業拡張を目指していますが、狙いはネット動画です。そこにコロナ禍が起こり、オファーが相次いだということもありました。オンラインセミナーやオンラインイベントなどの申し込みがあり、対応してきました。

 

 このように、地域のメディアとしてもコロナ禍の中、デジタルでどう対応していくかということが、大きく問われた1年だったと思っています。

 

  今のお話をお聞きになって、平井大臣はどうお感じになりましたか。

 

平井大臣「新聞社に一番重要なのは地域における信頼」

 

 平井 神戸新聞さんの取り組みは、まさにデジタル化の流れの中で非常にスマートなやり方です。

 今回の100年に1回というパンデミックによって、デジタル化のスピードがやはりとても早くなったと思います。完全に元には戻らないニューノーマル、今までとは違った社会にバージョンアップしていく流れの中で、デジタルをうまく活用して、いろいろな価値を創造するということが、ビジネスモデルとしては当然考えられるでしょう。

 

 そういう意味で、神戸新聞のような取り組みは、いろいろな分野でも起きてくるでしょうし、同時にニュースもさることながら、いろいろなコンテンツ市場の量的、質的な構造変化というものも起きてくると思います。そうなった時、いろいろなものをきちんと流通させるために、権利処理のコストを下げていくだとか、一元的な権利処理の制度を整備していくことが重要になってきます。

 

 こういったことに今、文化庁を中心に動き始めました。なかなか重い腰だったのですが、今は配信ルートがものすごく多様化していますし、コンテンツの流通量がどんどん増えています。また、クリエイターと言われる人たちもどんどん多様化しています。こんな想定外の事態ですから、当然、新しいメディアというものもどんどん出てきます。そこにコンテンツを供給する人たちは、はっきり言って今までのような一部の人ではなくて、誰もがコンテンツを供給できるようになっています。

 

 例えば、熱海の土石流の現地映像ですが、あれも現場にいた一般の人が自分のスマホで撮ったものを、何らかの経緯で放送局が使っています。放送局のカメラが駆けつけて撮っているというものではないわけです。ですから、こういった時代のいろいろな権利処理みたいなものを、素早くしていくということは当然の方向だと思います。

 

 その中で、新聞社にとって一番重要なのは、やはり地域における信頼とそれに基づく取材による記事でしょう。これはローカルに存在する新聞社しかできないことです。最も地元と密着したところで、重要な情報を発信できるというのは非常に素晴らしいことだと思います。おそらくそこが、今後一番の競争力の源泉になっていくのではないだろうかと想像します。

 

  地方やローカルを見直す動きというのは、このコロナ禍でクローズアップされてきていると思います。神戸は大阪という大都市圏の隣でもあります。高梨社長には何か具体的な事例などをご存じでしたらお話しいただきたいと思います。

 

 高梨 昨年来のコロナ禍では一極集中、都市部の集中の脆さといったことが指摘されました。そして、テレワークやオンライン化が進んでいく中で、分散型の社会を進めようという動きがあるのは事実だと思います。おっしゃるように、地方やローカルを見直す動きが出ています。

 

 地元の兵庫県で言いますと、例えば人材派遣大手のパソナグループが、主な本社機能を東京から兵庫県の淡路島に移す試みが注目されています。パソナグループの南部靖之代表は十数年来、淡路島の観光や農業の事業を展開されていましたが、コロナ禍で移転の構想を打ち出されました。2つの狙いを言っておられ、一つはBCP、事業継続のための本社機能の分散です。もう一つは社員の皆さんの生活環境の向上です。テレワークも進む中で一挙に決断され、3年かけて1200人を移されるということです。

 

 オンライン、テレワークの活用によって、やはり地方の垣根がだんだんと低くなってくると思います。その中で、地域の力、地域の魅力といったことが競われるというか、問われる時代になっています。今後もその傾向はますます強くなっていくだろうと見ています。

 

高梨社長「アフターコロナへ事業の再構築を急ぐ」

 

  高梨社長に続けておうかがいしたいのですが、コロナ禍の影響は長期化していますが、その中で伝統的なメディアもデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速しています。神戸新聞社ではどのような取り組みをされているのでしょうか。

 

 高梨 コロナ禍を受けて、社会はデジタルだけでなしに、大きく動いています。アフターコロナへ向けて、新聞社もやはり事業の再構築を急がねばならないと考えています。この難局を変革の原動力に変えていく発想と取り組みが欠かせません。

 

 その第一が、やはりDXだと思います。コロナ禍は長期化する見通しで、社会や経済の流れ、人々の行動パターンもさらに変化し、デジタル化はますます進むと考えて、昨年DXを全社的に進め、統括する組織「DX統括本部」を新設しました。

 

 まず、「デイリースポーツ・オンライン」や「まいどなニュース」の取り組みを生かして、「神戸新聞NEXT」とは別の新たな商品、サービスを作り上げたいと考えています。それに向けて、デジタルでオリジナルコンテンツをつくる体制だとか、ワークフローの見直しとか、どんなコンテンツが皆さんにアクセスしていただけるのかというチャレンジを続けているところです。

 

 もう一つ、先ほどGIGAスクール構想の話がありましたが、その取り組みも始めました。全国の小中学生に1人1台、タブレットやパソコンが配られているわけですが、平井大臣の指摘のように、現場ではまだ模索が続いています。ですから、その活用方法について新たな提案をしています。神戸新聞の地域版の記事が、始業前に簡単に児童・生徒の皆さんに見てもらえるような配信を始めたところです。現在、県内6つの市町でお試しの使用をしていただいています。

 

 また、これはコロナ禍の前に始めたことですが、神戸新聞社には本格的な新聞を簡単に作れるクラウド型アプリ「ことまど」があります。児童・生徒が自分でアプリを使って簡単に新聞をつくれるものですが、これもGIGAスクール構想の追い風もあって、全国の教育委員会や新聞社の皆さんから大変引き合い、問い合せをいただいています。

 

 私たちは長年、NIE(教室に新聞を)活動に取り組んできましたが、今の時代はなかなか親の世代にも紙の新聞に馴染みがない方もいます。ですから、タブレットやパソコンなどで新聞に馴染んでもらって、次の時代につなげていかなければならないと思っています。

 

  平井大臣は香川県の地元メディア四国新聞社のオーナー家のご出身でもいらっしゃいます。従来のマスメディアも変革が求められていますが、このあたりはどのようにお考えでしょうか。

 

 平井 私は地元メディアのオーナー一族だとしょっちゅう紹介されるのですが、四国新聞社の株式は、昔に持っていた比率で言うと0・46%しかないんですね。というのも、政治家を目指した時点で、マスコミの株式の相続は私自身が拒否したというか、お断りをしたということです。つまりオーナー一族と紹介されますと、なにか一体のように思われてしまいますが。弟が四国新聞社の社長ではあるのですが、まあ、そういう関係であるということです。こういったことを語る機会がめったにありませんので、あえてお話をさせていただきました。

 

 さて、ローカルの新聞社や放送局ですが、やっぱり地元の信頼ということが一番大きいと思います。先ほども言いましたが、GIGAスクール構想でも、子どもたちに新聞記事を使った授業なども新聞社という信頼があるからこそ、皆さんが一緒にやりたいと思うんですよ。それが何かわからないところからポッと来ても、それは難しいと思うんです。

 

 長年にわたる地元からの信頼、そして自宅に毎日ちゃんと紙の新聞が届くということも、信頼の一つだと思います。そういったことの積み重ねの歴史と信頼というのは、一朝一夕にできません。

 

 ですから、その信頼をもとにどんな商売をするのかと考えた時に、おそらくいろいろあると思うんです。それは単に記事を書き、ニュースを配信するだけではないでしょう。例えば、地元の人たちが一番お困りなのは、病気になった時にどうするのか。正しい情報を得て、それに基づき信頼できる病院に行きたいと考えます。

 

 コロナ禍でも、その地域でのワクチン接種の情報がどうかとか、予約がちゃんできるのかとか、誰に聞いてもわからないし、自治体に聞いてもバラバラといった時、やはり一番信頼されるのはその地域に長年根ざしている新聞社ではないかと思うんです。そして、その信頼を介して、国民の困っていることに応えることは、今まで新聞社がやってきた仕事の延長線上じゃないものも、たくさんあるのではないかと推察します。

 

 つまり、現状をデジタルで何か変えるというのは、私はDXだとはまったく思っていません。もっと根本的に、今の自分たちを否定するところから始まります。今の自分たちのままだったら事業がジリ貧になっていくということであったとしたら、なぜそうなるのかということです。この延長線上に未来がないと考えた時点で、いろいろな選択肢が出てくる中で、一番強いのが信頼だと思います。

 

 ですから、利用者の同意を得て取得した行動や購買の履歴などの個人データを企業に提供する「情報銀行」といったサービスも、地方紙にとって一番いいのではないかなと思います。自分の情報の選択などを誰かに信託するわけですが、まったくわからない新興企業ではなく、地方紙と地方銀行などが共につくったものに、地域の人は最も信頼を持つのではないでしょうか。

 

 そういった形で考えますと、もっと幅を広げて考えるといいと思います。例えば、ものを買うということも当然あてはまるでしょうし、自宅にデリバリーしてもらうのもそうです。そういったことも当然、ビジネスの範囲に入ってくる可能性はあるでしょう。

 

 南 高梨社長にもこれから期待される地元メディアの役割などについて、改めてお聞きしたいのですが。

 

 高梨 平井大臣のおっしゃった信頼性をバックにした地元メディアの役割についての話は、デジタルの分野で大事な視点だと聞いておりました。

 

 地域のメディアとしてデジタル化を目指していくのは、なかなかハードルも高いということは覚悟をしています。ニュースのコンテンツを配信するだけでは、なかなか乗り切れないだろうと思っています。その中で、この地域のメディア、新聞にある信頼性をバックにしたいろいろなサービスを考えています。どんなサービスならお金を出してもらえるのか。ビジネスとして成り立つのか、そういった視点がなければ地域メディアはデジタルに進めないと思っています。コンテンツだけでない幅広いサービスという視点が大事だと考えています。

 

  平井大臣はデジタル庁発足にあたって、「デジ道」という言葉をよく使っていらっしゃいます。デジタル庁は「誰一人取り残さない」「人に優しいデジタル化」を旨として進めるということですね。

 

 平井 日本は、光ファイバーが全国各地、離島にまで通っていますし、携帯会社のインフラも5Gが始まり、どこにいてもブロードバンドが使えます。これだけ素晴らしいインフラを持っていながら、なぜこの日本には新しい価値が生まれないのかというと、やはり使う側の人々が本当のエンド・トゥ・エンドでサービスをデジタル化してやろうという、知恵が少し足りなかったのだと思っています。

 

 デジタル化を進めるにあたって、アメリカや中国の事例も踏まえながら、日本流のデジタルを進めなければなりません。これは法案の段階で基本理念をつくる時に、多くの皆さんから言われたことです。公正で透明性が高く、包摂性を持ち、多様なものにも対応できる。その中から出てきた言葉が「誰一人取り残さない」ということです。

 

 ですから、格差が広がるようなデジタル化とか、一部の人たちが利益を得るようなデジタル化を、今さら日本がやるということはありません。社会全体がデジタルのメリットを享受できるためにはどうしたらいいのかが、私たちの大きなテーマです。

 

 今、「DX」という言葉が多く使われています。「デジタル化によって生活や職場環境を良くしたりビジネスの構造を改革しよう」ということでしょうが、どうしてもただのバズワードみたいに聞こえてしまいます。ですから私は「デジ道」という言葉を使っていきたいと考えています。剣道や柔道などの「道」と同じニュアンスで、デジタルによって人助けをする道、デジ道です。

 

  「アナログの世界を豊かにするために、デジタルテクノロジーをいかに賢くスマートに使っていくか。それがデジタル庁の進むべき方向だ」ということですね。

 

 平井 まさにそうです。私たち人間というのはアナログの存在で、五感もすべてアナログです。私たちが幸せになるのは、デジタル空間の中では無理なんですよ。いかにアナログ空間を豊かなものに変えるか。そのために裏でテクノロジーをいろいろ使うという話です。

 

 先ほど高梨社長がパソナさんの事例をお話されましたが、そういったことが日本全国で起きています。私の地元の香川県の小さな男木島にもエンジニアがたくさん移動しています。岩手県紫波町や福島県会津若松市などの事例もあります。

 

 これだけリモートワークなどが進みますと、わざわざ東京の満員電車に揺られて仕事に行き、高いマンションを買うよりも、思い切って自分の趣味が楽しめたり、子育てしやすい、気候がいい土地に移りたいという人たちも増えています。つまり、そういう選択肢、時間と距離の概念を壊すのがデジタル化なんです。新しいデジタルワーキングスタイルが完全に根付いてくる中で、絶対にそういうものは地方に行くと思うんです。

 

 この2年はまったくやっていませんが、私もゴルフや釣りが趣味です。だったら、ゴルフ場が近くて安い、すぐに釣りに行けるところで働きたいと思います。これはまさに私の地元のことを言っているんですが。

 

 神戸新聞社さんのデジタル化と、その地元地域のDX、働く人たちのデジタルワークスタイルが、バラバラに起きるのではなく、それぞれが一つの方向に向いてだんだんと一緒になっていく。それが日本の未来だろうと私は思っています。

 

ネット投票はマイナンバーカードの普及次第

 

質問する時事通信社・境社長

 

  それでは、会場にいらっしゃる時事通信社の境克彦社長から質問をいただきたいと思います。

 

  私からは、特に若い世代の地方選挙への関心をどうやって高めていくかという観点から、お二人にうかがいたいです。デジタルネイティブ世代が日本社会で多くを占めていくと、投票に参加するという民主主義の根幹すら危うくなるのではなかろうかと考えています。日本もそろそろネット投票に舵を切っていいのではと考えておりますが、平井大臣はいかがでしょうか。

 

 平井 例えば、在外公館の選挙の投票がとても不便なので、総務省の方でマイナンバーカードを使った実証実験をしたりしています。投票の秘密性や投票環境の公平性、公正性などいろいろありますが、やはり時間と距離の問題を解決するという意味では、当然ネット投票が考えられるでしょう。

 

 特に日本の場合、高齢化率が世界で最も進んでいます。これから先、投票者は80代、90代となり、へたしたら100歳を超えて投票所に行かなければならないとなったら、季節によっては命がけです。

 

 今、マイナンバーカードを持っている人が3人に1人となりました。申請ベースですと5000万人を超えています。例えば、エストニアのように98、99%の人々がマイナンバーカード持ち、本人であることを認証できる機能を使える時代が来たら、自動的にネットで投票しましょうというふうにならざるを得ないと思います。ですから(ネット投票への)時間軸は、マイナンバーカードの普及のスピードと同じだろうと考えています。

 

 ですが今は、若い人たちに政治は自分と関係ない世界、誰に入れたって代わり映えしないと思われているのではないでしょうか。おそらく本当に期待したくなるような、実現可能な政策がないのだと思うのです。ですから、ネット投票を完備したとしても、魅力的な候補、魅力的な政策がないと、やはり投票率は上がらないと私は思っています。

 

  ありがとうございます。神戸新聞社さんでは兵庫知事選の際、自社のユーチューブチャンネルで立候補予定者の公開オンライン討論会をライブ配信されていました。とてもいい試みで、ああいったことで新聞と地域住民との新たな接点が生まれ、地域創生にも大きな刺激になっていくのではないかと思いました。今後の方向性なども含めてお考えをお聞かせください。

 

 高梨 今回の兵庫知事選では5期20年続いた知事が引退を表明するなど、多くの注目を集めていました。その中で、この注目されている知事選をしっかりしたコンテンツとしてデジタルを活用して発信したいということで、オンラインでの公開討論会を行いました。紙面で報じるだけでなく、デジタルでライブ配信しました。

 

 これからはやはり、新聞読者にもより便利に、そして新聞を読んでいない皆さんにもネット動画にアクセスしてもらい、接触する機会を増やしていくことがこれからも求められると思っています。とりわけ動画はネットの中で、ニュースでも広告でも、これから大きなウエイトを占めてくると見ています。社内にも動画を配信する常設スタジオも設けました。そういう形でサービスを広げながら、アクセスを呼び込みたいと思っています。

 

  ご登壇いただいた平井大臣、高梨社長、貴重なお話をありがとうございました。