書店議連・齋藤健幹事長に聞く 再販制度に基づく適正な競争を、新たな法整備も視野に

2021年7月5日

書店議連 ・齋藤健幹事長(自由民主党)

 

 自由民主党による「全国の書店経営者を支える議員連盟(書店議連)」の幹事長を務め、立ち上げメンバーの一人でもある齋藤健衆議院議員。さまざまな本が並ぶリアル書店の“一覧性”は、思いもよらない出会いを提供し、人間の視野と興味の幅を広げてくれる大切な場所だと「まちの書店」への想いを語る。インタビューでは日本の文化水準を維持するために書店が不可欠としたうえで、再販制度の趣旨に反しているビジネスモデルを是正する法整備が必要だと指摘。出版業界と関係省庁、書店議連の三者がどのような役割を果たし、手を取り合っていくべきかを聞いた。

【鷲尾昴】

 


「書店の減少は文化を劣化させる」と強く語る齋藤議員

 

――書店議連の幹事長を引き受けた経緯について教えてください。

 

 出版業界や書店業界の問題が深刻化しているという話は、知り合いの書店経営者から伺っていました。ネット書店による高いポイント還元で、事実上の値引きが横行し、再販制度が崩れていること。また、図書館が新刊のベストセラー本を大量に購入し貸し出すことで、書店の売り上げと利益を奪っている問題、このほかにも万引きやキャッシュレス化による手数料負担など、書店が直面している課題について詳しく聞いてみると、よくある中小企業の問題だとは思えませんでした。

 

 海外の例ですが、フランスでは「書店が減ると文化も劣化する」という国家的な意識があるそうです。また、アメリカではネット書店に対抗する出版社があって、ネット販売への出品数を制限しているようです。そうした対応を国家レベルで取り組んでいる背景は、一にも二にも文化を守るためです。

 

 私がそうした問題意識を抱いていた平成28年(2016年)の末頃、当選同期の伊東良孝衆議院議員から「書店さんから生の声を聞いてみよう」とのお誘いをいただき、まずは懇談会という形で書店経営者の方々から実情をお聞きしました。

 

 その後、国会議員の仲間を募り、自民党の議員連盟できちんと議論をしていくべきだと方針を固めました。主体となって動いていただいた伊東衆議院議員が事務局長となり、文部科学大臣と官房長官を歴任された河村建夫衆議院議員が会長、私が幹事長を引き受け、書店議連が立ち上がりました。

 

 ――書店議連の根幹となることですが、「まちの書店」はなぜ必要なのでしょうか。齋藤議員のお考えをお聞かせください。

 

 “一覧性”とだけ言ってしまうと、軽い言葉に聞こえてしまいますが、リアル書店を訪れるとまず独特の雰囲気の中で、いろいろな背表紙を目にします。そうすると、今までまったく関心がなかったのに、なぜか気になる本と出会うことがあります。

 

 リアル書店が与えてくれる“一覧性”は、思いもよらない出会いを提供し、私たちの世界を広げ、興味に幅を与えてくれる大切な場所です。対照的にインターネットは興味を狭く絞り込んでしまう。もしリアル書店がなくなってしまったら、視野が狭まり自分の関心事項ばかり追求する人が増えていきます。それは由々しき事態です。

 

「新聞」も同じく“一覧性”有する

 

 業界は異なりますが新聞も同じ“一覧性”を有しています。今まで興味のなかった記事に目が留まり、未知の情報に触ることで多様な考え方が根付きます。紙の新聞も完全にネットで置き換えられない存在です。リアルとネットの世界は適切に住み分けて進めていくべきです。また、本は出版されるまでに編集者などが介在し、校正、校閲を経て一定の水準が保たれています。

 

 そういう最低限の水準が担保されている本を取りそろえ、“一覧性”を活かして読者に選ぶ楽しみ、出会う喜びを提供してくれるリアル書店の減少は深刻な問題です。残念ながら日本では年間400~500店もの書店が姿を消していっているんです。

 

文化保護の観点から

 

 ――書店の抱える問題は多岐にわたりますが、その中でも注視されているのは。

 

 当面の懸念は二つあると考えています。一つは改正著作権法の「図書館関係の権利制限規定の見直し(デジタル・ネットワーク対応)」です。

 

 改正著作権法は今年5月26日に可決・成立し、今後はワーキンググループで具体的な運用方法を決めることになりますが、著作権者の権利を無視した形で、コンテンツ利用が広がっていくのではないかと恐れています。

 

 著作権者の権利が侵害されるようになれば、作品の生まれる環境が蝕まれていき、書店の減少と同じく文化の劣化につながります。利便性も大事です。しかし、著作権者の権利を守る環境を整えるのはもっと大事なことです。

 

 デジタル・ネットワーク対応のルール作りをする際は、書店や作家などあらゆる関係者を入れて議論していくべきです。

 

 また、書店議連で行った議論の過程で驚いたのが、国立国会図書館においてデジタル化された「絶版等資料」の扱いです。当然ですが絶版になったとしても著作権は存在する場合があります。それにも関わらず、「絶版等資料」は図書館の公衆送信で著作権使用料が発生しない。その前提で運用方法が進められていました。書店議連は今後も法改正の細部まで注視し、文化保護の観点から著作権者の権利を擁護していきます。

 

 ――もう一つの懸念点とは。

 

 著作物の再販制度です。あくまで私の主観ですが再販制度は崩壊しつつあります。送料無料や高いポイント還元など、実行可能な一部の企業による事実上の値引きが横行した結果、出版業界の競争は歪んだ形となっています。

 

 制度として定められた価格拘束があるにも関わらず、一部の企業は他社がついてこられない事実上の値引きやサービスを提供し、過当競争が起こっているのが現状。競争政策上、その点に疑問を感じます。法律に沿った「再販売価格の拘束」の下で、適正な競争が行われるべきです。

 

 ――適正な競争環境を作るためにはどうするべきですか。

 

 将来的な話となりますが、現状を改善するための立法も視野に入れています。競争関係を不当に歪めるビジネスモデルを制限し、フランスを見習った文化政策を日本でも進めていくべきです。

 

 ――経済政策ではなく、文化政策として打ち出す理由は。

 

 経済政策だけの視点ではダメで、あくまでも文化を保護する政策として法整備を進めるべきです。平安時代ですら清少納言や紫式部といった書き手を支援し、文化を育む環境がありました。文化を生み出す土壌を弱めてはいけません。

 

 ところが、今は結果として書き手を圧迫する方向の制度をつくっているように思えます。文化振興の面では平安時代に劣っているかもしれません(笑)。現代においても法制度による文化の保護と支援が必要です。

 

 図書館のデジタル・ネットワーク対応や再販制度については、業界内でも賛否両論があるようですが、利害調整では絶対にまとまることができません。すべての関係者が「文化を守る、作家の創作力を維持・向上させる」ということを判断基準とし、一丸となることを望んでいます。

 

 私は、文化庁こそ、日本の出版文化を守る中心となってこの点を主導すべき存在だと思います。作家、書店、図書館、出版社、取次会社、文化庁、どの立場であっても原点にあるのは出版文化をしっかりと日本に根付かせ、後世まで残していくことです。その価値観を基点にして一つずつ課題を解決していくべきです。

 

文化を守るため書店を支える

 

 書店ではキャッシュレスの設備費や手数料が問題となっています。それは書店以外にも抱える問題です。ですが、文化を守る観点から書店が大事であるなら文化庁が助成する根拠となるはずです。文化を担う出版業界には文化庁が対応すべきだと思います。

 

 どのご商売も人が生きて行く上でさまざまな存在意義があると思いますが、書店というのは日本の文化レベルを象徴する一つと考え、書店がどんどん減って行くことは日本の文化レベルを劣化させる危機だと思います。

 

 その原点をしっかり踏まえれば、書店だけを支援するのは論理的に成り立ちます。書店の権益を守るために、書店を支えるのではありません。出版文化を守ることを目的として、書店を支援するということです。

 

 価格競争によって、より安価にコンテンツを楽しみたいという意見もあるとは思います。しかし、コンテンツを作る力が弱まったら元も子もありません。どこかで線引きをするのなら経済合理性ではなく、文化を守る観点に立って行うべきです。

 

 ――そうした動きに対して出版業界はどう対応していくべきですか。

 

 出版業界が利害を巡って内側だけで議論していても何事も達成できません。文化庁が文化を守るために動いてくれるようになったとき、出版業界は軌を一にする必要があります。互いに手を取り合う体制ができれば問題は改善し、できなければ出版文化は劣化していきます。

 

 権益を守ろうとして、意見が合わないという状態を続けるほうが自分のためになりません。「出版文化を守る」その一点で業界がまとまり、全体的な合意を得れば自分自身を救うことになります。

 

 自己中心的に利益を考え、それぞれが好き勝手に動いたら、結果として出版文化は滅び、手痛いしっぺ返しをくらうことになります。忍び難いところがあっても忍んだほうが、長い目で見たとき、必ず得られる恩恵があります。コンテンツを育む環境にどのような影響を与えてしまうかを熟考し、長期的な視点から行動するべきです。

 

 一番重要なのは、文化の振興を担っている文化庁が、この視点から積極的な姿勢を示すことではないでしょうか。

 

文化庁が前進、政治はバックアップ

 

 出版文化を守るためには、文化庁にもっと危機意識を持っていただく必要があります。ですが、文化庁が単体で成し遂げられることでもありません。財務省や経済産業省、公正取引委員会などとの関係もあるので、省庁間の調整には政治のバックアップが不可欠です。

 

 前に進んでいく文化庁を政治が後押しをする。政治が先に進んでも、文化庁がついてこなかったら、私たち国会議員からすれば梯子を外されるようなものです。

 

 政治はあくまでも後ろ盾であり、文化保護の中核となるのは文化庁です。日本の文化、なかでも出版文化を守るために文化庁に働いてもらい、その後でバックアップするというのが書店議連の役割であり、政治の使命です。

 

 ――ありがとうございました。