Conteur(コントゥール) 保富貴子さん 図書館司書から転身、絵本カフェ&バーオーナーに

2021年6月15日

「微力だけど絵本作家を応援したい」と保富さん

 

 大阪取引所を筆頭に、大阪屈指の金融、ビジネス街として知られる北浜界隈。地下鉄北浜駅近くの小さなビルで、絵本に囲まれてチーズ料理やワインをふるまうお店が密かな人気を集めている。

 

少し疲れた人の「居場所」に

絵本に囲まれて癒される店内

 

 絵本カフェ&バー「Conteur」(コントゥール)を営むのは元図書館司書の保富貴子さん。「少し疲れた人が会社帰りに立ち寄って、ちょっとだけでも元気になって帰ってもらう。そんな居心地のいい『居場所』をつくりたい」と2019年秋にオープンした。

 

 大阪府豊中市の図書館に10年以上勤務。エリアによって経済的格差が大きいという同市。保富さんは「一人暮らしの老人や貧困家庭が多い地域では、図書館が大事な居場所だと意識した」とし、「私も50歳を超え、残りの人生を考えたとき、人の役に立ちたい、悔いのない人生を歩みたいと思って決断した」と開業の経緯を話す。

 

スペースの有効活用

 

 以前からチーズ好きでキッシュづくりに取り組んでいた保富さん。働きながら開店準備を進める選択もあったが、「中途半端な気持ちでは実現できない」と退路を断ち、チーズプロフェッショナルの資格を取得、ワインも勉強し、物件探しに奔走した。

 

 「『人助け』といっても大それたことはできない。普通に働けていても少し困っている人、何かを抱えている人は多い。そういう人たちのちょっとした拠り所、癒しの場所にしたい」とビジネス街にこだわったが、賃料面で苦慮する。

 

 苦労の末、予定コストに合うビルが見つかったが、エレベーター無しの3階。「飲食専門の人から見ればNG物件かも知れないけど、飲食を介して人が『ゆるく』繋がる空間にしたかった」と問題なく決めたという。

 

 ただ、想定より広くなり、すべてを客席にして一人で料理を提供し、切り盛りするのは困難。「イベントやセミナーができないか」と模索する。

 

 開店チラシを配布していると、ある会社社長の女性が立ち止まり興味を示した。店の雰囲気や保富さんの考えに共感し、イベントができる人を紹介してくれた。

 

 その一人が、朗読とプロパノータ(プロパンガスのボンベを再利用した打楽器)演奏を披露する加納恵美子さん。朗読会は、「心地良い声と音色に癒される」と参加者から好評を博している。

 

朗読会の様子(conteur 提供)

 

絵本への特別な思い

 

 「絵本」で店づくりに挑んだ理由について「図書館時代に絵本作家の厳しい現状を知った。素敵な作品が図書館では『絵本』という理由で決まって児童書の絵本コーナーに置かれる。書店でも人気の作家やキャラクターなど同じ作品が並ぶ。大人にも読んでほしい絵本や、素晴らしい作品が埋もれている。微力ながら作家さんを応援したかった」と語る。

 

 販売用は大阪の書店から二次卸の形で仕入れ、展示用は図書館時代の目利きで自ら入手する場合や、常連客らが持ち寄るなど多様な絵本で店内を彩る。

 

 お客から「子どもにお薦めの絵本は」と聞かれることがあるが、保富さんは「教育に効果的などを重視しがちだけど、親御さん自身が見て気に入った作品をプレゼントするのも子どもには素晴らしい思い出になる」と提案する。以前も2歳の女の子を持つ父親に話すと、『きみへのおくりもの』(NHK出版)を選んでプレゼントした。後日、家族総出で「娘がこの本をすごく好きになった」とお礼に訪れたエピソードも教えてくれた。

 

チーズと絵本で笑顔届ける

 

 人気メニューは手作りのチーズケーキやキッシュ。チーズに合うワインにもこだわるが、「働く人の応援」と、安価で美味しいものを厳選する。

 

 保富さんは「仕事を頑張った人が帰宅前に立ち寄って、絵本を見ていろんな話をしながら気分を変えて家に帰る。もし大きな悩みを抱えていれば私の経験から行政機関の紹介もできる。そういう人たちの居場所をなくさないよう細くだけど、長く続けていきたい」と笑顔で話す。

 

 出版社に向けて「大阪に出張に来る際はぜひ立ち寄ってほしい」とし、「お薦めの絵本を送ってくれれば飾らしてもらう」と呼び掛けていた。  

 

【堀雅視】

 


 

絵本C a f e &B a r Conteur(コントゥール) 

住所=大阪市中央区2―2―9 今橋ビル3階

電話=06(7220)9809

営業時間=曜日により異なる(ホームページ参照)
https://conteur-imabasi.jimdofree.com