【編プロ特集】日本編集制作協会・小林哲夫理事長に聞く 時代のニーズに応える編集プロダクション

2021年4月19日

小林哲夫理事長

 

 1983年に設立された日本編集制作協会(AJEC)は、現在、正会員社38社、準会員社8社が加盟している。出版流通のIT化やコンテンツのデジタル化にともない、編集制作会社の取り組みも多様化している。変化し続ける編集制作会社の現在と今後について、小林哲夫理事長に話を聞いた。

 


――AJECの活動について教えてください。

 

 当協会は1983年4月28日に設立し、今年で39年目になります。活動は大きく2つに分かれ、「部会活動」と「委員会活動」があります。

 

 部会活動は、会員社の特性によって、「一般書部会」「教材部会」「デジタル部会」「企業出版部会」と4つに分かれ、各種の勉強会・情報交換会・講師を招いてのセミナーを開催しています。

 

 委員会活動は、会員社の経営レベルアップ、社員・スタッフの研修・スキルアップ、協会の活動案内・PR、組織強化・拡大を目的に、「経営委員会」「教育委員会」「広報委員会」「組織委員会」の4委員会を設け、「経営セミナー」「経営合宿」、年8回にわたる「編集講座」の開催、「社員交流会」、「会報・会員ガイド」の発行、HP・Facebook・Twitterの発信、「日本編集制作大賞」・「編集プロダクションフェア」の開催などを行っています。

 

 これらの活動を通して、協会は、自分たちの企画力・編集力・制作力の「武器」をつねに磨いてきました。

 

出版社の「パートナー的存在」

 

――活動内容や役割は設立当初と現在でどのように変わったのでしょうか。

 

 はじめは会員社間の親睦と交流、業界内外の情報交換が中心でした。しかし、創設時の会報で、初代理事長が「もはや、編集プロダクションは出版界の『黒子的存在』ではなく、版元ともども共存共栄をはかる『パートナー的存在』に変貌しつつある」「それぞれに特色ある編集プロダクションが、斬新な企画を生み、すぐれた編集技術を駆使するとき、低迷を続けている出版界は活性を取り戻すに違いない」と述べているように、高い理想と目標を持って、先ほど述べたような活動を続けてきました。

 

 その「パートナー的存在」としての基本は今もまったく変わっていません。しかし、38年後の今日、業界は大きく変容し、我々もまた、それに連れて、新しい環境への「適応力」を身につけてきました。

 

 かつては紙の出版物を中心とする取次―書店ルートの業界が「出版界」といわれてきました。しかし、コンビニ・生協・直販・通販・家販・ネット販売も含めて、デジタル化、IT化の波により、業界は急速に多様化しています。

 

 今まで「出版」の一分野としての位置にあった「編集」は、逆に「出版」が「編集」の一つの分野となり、デジタル媒体等の拡大とともに、情報加工としての「編集」は、業務内容・領域が大きく広がり、また変容してきています。

 

 その意味でも、我々38年の歴史を持つ「日本編集制作協会」は、媒体が多様化するにつれ、そのノウハウと実績力がますます必要とされ、さらに重要な任務を与えられることになりました。

 

――編集制作会社の現状(会社数、企業形態、対象分野など)を教えてください。

 

 ひと言で言えば、多種多様です。会社数は2000社とも1000社とも言われていますが、その数ははっきりしません。生まれては消え、消えては生まれていると言ってもよいでしょう。企業形態も個人に近い形から100人規模の会社もあります。また、完全独立型から出版社の子会社としての組織もあります。また、「屋号」は1つでもその中にいる人間はフリーランスの集まりという形態もあります。机とパソコンさえあれば、成り立つ職種ですから、規模はいろいろです。

 

 対象分野もさまざまです。もともとは出版社の編集部門の請け負いからスタートしていますが、先ほども述べたように、出版業界を超えて、企業や各種団体、学校、広告系、IT系の業界など、いろいろ広がっています。

 

 ジャンルも千差万別で、森羅万象すべてがテーマで、それぞれ得意分野を持ち、それを「売り」にした企画・編集・制作業務を行っているのが編集プロダクションです。

 

デジタル・IT部門が好調

 

――編集制作会社の経営状態について、最近の状況を教えてください。

 

 これも千差万別です。AJECの会員社はジャンルごとに「一般書」「教材」「デジタル」「企業出版」と分かれますが、書店―取次ルートを中心とした「一般書部門」は業界の低迷によりたいへん厳しいと言われています。編集単価も大きく下がり、かつては「編集印税」もけっこうありましたが、大半の本が重版もかからず、売上は下降線をたどっています。

 

 最近はコロナ禍の「巣ごもり需要」で一部は盛り返していますが、むかしの勢いはありません。同様に、かつては日の出の勢いであった「企業出版部門」はバブル崩壊後、企業の落ち込みとともに低迷していきました。社史・年史・社内報の制作から広告・PR・IR活動向けの編集物へと移行しています。

 

 「教材部門」は昨年・一昨年と「教科書改訂期」で、仕事量も多く、売上も向上して経営状態は良かったようです。

 

 とくに学習指導要領の改訂で、小学校英語の導入や指導方針の大幅な変更による、いわゆる「大改訂」の時期で超多忙な期間でした。しかし、これからまた「冬の時代」に入り、厳しい経営状態が続くことになります。

 

 経営状態が上に向いている業種はやはりデジタル・IT部門です。これは一般書も企業出版も教材系も関連する分野ですが、電子書籍、企業用HPやWEBサイト、デジタル教材など、広い意味でのさまざまな「デジタル編集制作」業務が活発化しています。

 

 今は「編集もDX時代」と言われています。IT技術やAIの知識・ノウハウを駆使して、時代の要求する「編集」を提供する会社が今求められています。

 

――編集制作会社は雑誌や書籍の取材やページ作成など、出版物の制作に特化した「黒子」のような存在というイメージがありましたが、現在はどのような立ち位置なのでしょうか。

 

 今はまったく違います。先ほども述べましたが、「黒子的存在」ではなく、版元や企業・クライアントとともに共存共栄をはかる「パートナー的存在」に完全に変貌しています。

 

 確かにかつては、取材だけ、文章だけ、写真・デザインだけ、校正だけといった、出版物の編集制作の一部だけを受注するパート仕事といった面がありました。しかし、今は書籍や雑誌を、企画から取材・執筆・撮影・レイアウト・デザイン・編集・DTP・イラスト・図版・校正・進行管理に至るまで、まるまる1冊あるいはシリーズの編集制作を一式、受注するケースがほとんどです。

 

 極端に言えば、出版社は編集長1人いれば良く、編集作業はすべて独立した得意分野を持つ編集制作会社が肩代わりして行うといった形です。とりわけ、さまざまな分野の「実用書」はほとんど編集プロダクションが最初から最後まで担当していると言ってよいでしょう。

 

――出版業界をはじめとしたメディアの環境は大きく変わりました。そのなかで編集制作会社の役割も変わっていますか。

 

 大きく変わっていますね。おおげさに言えば、パートナー的存在から人も含めて企画提案・全工程受注型の存在になりつつあります。

 

 例えば、出版界においては、かつては作家や執筆者・クリエイターの開拓・養成・管理は版元のいちばん大事な仕事でした。しかし、いまやエージェンシー機能を持った編集制作会社がそれを行うケースや企業・団体・自治体に「編集者」を派遣する会社も生まれてきています。

 

 編集プロダクションは、「エディトリアルカンパニー」から「コンテンツメーカー」になりつつあります。原稿すなわちコンテンツはいまや出版社やクライアントに替わって、私たち編集制作会社がほとんど作り出していると言ってもよいでしょう。

 

 本の奥付に「編集協力」として、小さく1行だけ名前を載せていただきますが、その本の中身を作っているのは私たちだという自負と矜持を密かに持っています。

 

「ストーリー」「感動」を生む「編集力」

 

――編集制作会社の今後の可能性やあるべき方向性をどのようにお考えですか。

 

 これからは「出版」の時代ではなく「編集の時代」だと思っています。今までは「出版」の一分野として「編集」がありました。

 

 しかし「出版」という狭い分野だけでなく、もっと広いコンテンツの「編集」があらゆる分野で必要とされる時代になりました。今は「もの」を売る時代ではなく、「ストーリー」や「感動」を売る時代だとよく言われます。

 

 そうしたものを生み出す力はまさに「編集力」です。「時代に対応した編集力」をいかに身につけるか、それがテーマです。

 

 もちろんどの分野でも、「一流」であれば生き残れます。そのために「自分の武器」をきちんと磨いておくことが大切です。ありがたいことに、我々の基本的なノウハウはむかしから変わりません。企画力・取材力・文章力・原稿整理力・校正力・デザイン力・コミュニケーション力はいつの時代でも必要です。常に「一流の編集力」を身につけておくことです。さらに、時代を読み取り、時代に対応した新しい編集ノウハウ・経営力を身につけることです。

 

 先日も「コロナ禍における編プロ経営―テレワークのあり方」「DX時代に成長する編集プロダクションとは―」「いま地方の自治体や企業は何を求めているか」などの勉強会をオンラインで開催しました。

 

――小林理事長ご自身は、この間の編集を取り巻く環境変化をどのようにご覧になっていますか。

 

 今の出版界、紙の本が売れなくなり、書店が大幅に少なくなり、業界の不況がさらに深刻になっていることはとても残念ですが、私はいままでが運が良くて、恵まれていたのではないかと思っています。逆に、本来の「出版」・「編集業」とは何かを考え、模索し、再構築するチャンスだと感じています。時代も世の中も変わります。それを前提に対応していく「しなやかでしたたかな感性と意欲」を持っていたいと思います。

 

――最近この業界に入ってくる若い人材には期待をお持ちですか。

 

 大いに期待を持っています。私の会社の例で申し訳ありませんが、仕事は山のようにあります。また、編集という仕事は実におもしろい、楽しいと思っています。ぜひ若い人に入社して欲しいと、いつも門戸を開けています。

 

 しかし、かつてはたいへん志望率の高かった「出版」「編集」という職種は、いまは不人気です。業界の「不況」が影響していると思いますが、若者の「生き方」にも問題があるのではないかと感じています。

 

 「夢」や「希望」よりも「安定」「内向き」志向が強いと言われる若い人たちをいかに積極的な「野心」や「挑戦力」を回復させていくかも我々の課題です。

 

魅力的で業界に役立つAJEC

 

――AJECとしてこれから考えなければならない課題は何でしょうか。

 

 個人的には3つあります。「若手の活躍」・「IT化」・「組織拡大」です。しかし、一般的には「魅力的で業界に役立つAJEC」です。今のAJECは編プロの社長たちの組織で、編集講座と若手編集者の懇談会以外の活動は、編プロの社員やスタッフ、業界全体にはあまり役に立っていません。

 

 協会が発展するためには、社員やスタッフ、業界全体が本当に必要とする団体・内容・活動にしていかなくてはいけません。

 

 協会運営はお金がかかります。会員社が少ないと、AJECにかかる各自の負担が大きくなります。そうなると、ある程度の規模の編集会社でないと参加するのは難しくなります。

 

 今のところ、AJECは業界全体の協会というより、一部の会員社・社長の集まり的な存在になっています。

 

 そうした現状からなんとか脱却していきたいと思っています。今までの編プロは、安い人件費、不定期な仕事、特定の分野の編集力といった3つの版元の要望にうまく応えて生き残ってきました。

 

 そのため、小回りの効く小さな編プロか、体力のある大手の編プロに二極化してきました。そうした傾向からも脱皮していきたい。そのためには、異業種の人たちも加わった組織に進化していく必要があると思っています。

 

 例えば、プログラミングを専門とする会社、動画やゲームのプロダクション、IT系の制作会社など、広い意味での編集制作会社(コンテンツメーカー)の団体として、発展していければいいと思っております。

 


小林哲夫理事長

 

 小林哲夫(こばやし・てつお)氏  編集プロダクション・エディット代表取締役。1947年9月、愛知県生まれ。金沢大学法文学部卒。洛英社、ワールド教育出版、サンリードを経て、1990年10月エディットを設立。教材・一般書の編集制作を行う。17年間、東京デザイナー学院名古屋校で講師を務める。現在、日本編集制作協会(AJEC)・理事長、AJEC教材部会メンバー、日本教材学会個人会員。著書『なる本「編集者」』(週刊住宅新聞社刊)