【ソウル通信】本と社会研究所代表・白源根氏 世界に広がる韓国文学、政府の支援も一役

2021年3月2日

韓国出版文化産業振興院が運営する出版輸出プラットフォーム、K-BOOK(http://k-book.or.kr

 

 昨年、日本の出版市場では何点か韓国の本(翻訳書)が話題になった。小説『82年生まれ、キム・ジヨン』(筑摩書房、22万部)、『アーモンド』(祥伝社、12万部)、自己啓発の要素のあるエッセイ『私は私のままで生きることにした』(ワニブックス、45万部)、『死にたいけどトッポッキは食べたい』(光文社、11万部)、『あやうく一生懸命生きるところだった』(ダイヤモンド社、12万部)、社会分野の『反日種族主義』(文藝春秋、19年刊、41万部)などがよく売れた。

 

 もちろん韓国でも大きなベストセラーだった書籍である。ドラマ、映画、K―POPといった大衆文化の韓流現象は既に20年前からあったものの、韓国の本、特に文芸物が日本でベストセラーになったのは珍しい。真の男女平等という課題に対する両国の女性の共鳴が『82年生まれ、キム・ジヨン』の人気の背景と言える。そして、成長小説『アーモンド』は、本屋大賞の翻訳小説部門で1位をとったのが注目のきっかけだった。

 

 韓国文学が日本で受けたのは韓流スターの応援の力が大きかったと思われる。『私は私のままで生きることにした』はBTS(防弾少年団)メンバーの1人ジョングクの勧めで、『あやうく一生懸命生きるところだった』は東方神起のユンホの推薦で、『82年生まれ、キム・ジヨン』は少女時代のスヨン、レッド・ベルベットのアイリン、BTSメンバーであるRMの推薦が商業的人気の原動力となった。

 

 そして、韓国文学を専門にする日本の出版社クオンの活躍や、韓国関係の本を発行する出版社が日本で増えてきており、韓国のコンテンツを流麗な日本語に翻訳できる翻訳者が増加したことも大事な事実である。と言っても、コンテンツが何よりだ。韓国小説は日常生活の中に社会性や歴史性を織り込むのが魅力という分析もある。

 

 一方、韓国文学は世界各国で翻訳が活発になりつつある。それは速度の速い国力の伸長やK―POP、ドラマ、映画などの文化コンテンツの成長に負うところが大きいだろう。

 

 

 もともとテキストだけの勝負だったら注目はもっと遅れた可能性が高い。国際的に主な文学賞を受賞することにも役に立った。シン・ギョンスクの『母をお願い』がイギリスのマンアジア文学賞(2011)、ハン・ガンの『採食主義者』がマンブカーインターナショナル賞(16)、国民詩人の尹東柱を描いたイ・ジョンミョンの『星をかすめる風』がイタリアのプレミオ・セレジオーネ・バンカレッラ文学賞(17)、詩人キム・ヘスンがカナダーのグリフィン詩文学賞(19)、絵本『雲のパン』で有名なベク・ヒナが児童文学界のノーベル賞とも称されるスウェーデンのアストリッド・リンドグレーン賞(20)を受賞した。

 

 しかし、韓国語の文学作品だけでは、グロバル出版市場で言語のハードルを超え難い。この問題を解決してくれるのが政府の出版・文学支援の政策だ。

 

 

 政府機関である韓国出版文化産業振興院は、海外へ直接出向いて図書展(B2B)を開いたり、出版輸出プラットフォーム「K―BOOK」の運営と英文の月刊ウェブマガジン「K―BOOK トレンド」の発行、出版社の版権輸出広報資料の制作支援、海外翻訳出版支援、国際ブックフェアでのテーマ国開催や出版社のマーケティング活動の助成、ソウル国際ブックフェア及びソウル出版著作権フェア(B2B)の開催、韓国出版物を広く紹介する海外コミュニティー(団体)への支援、輸出コーディネーター(9カ国)システムの運営、様々な交流行事などを支援する多岐にわたる政策を実施している。

 

 また、文学に特化した韓国文学翻訳院は、文学振興法に基づいた機関で「世界と共に呼吸する韓国文学」を掲げる。海外出版社の韓国文学翻訳出版への助成、翻訳アカデミー運営、海外読者向けの読書感想文大会など、韓国文学を広く知らせる活動に集中する。

 

 01年から20年までの海外翻訳出版の助成は38言語に1912件あった。翻訳アカデミーでは、2年制の課程で48週の昼間授業がある正規コースと、1年制で夜間に授業のある特別コースを合わせて、19年までに総計1311名の外国人の専門翻訳者を養成した。

 

 政府主導の海外翻訳支援の目的は、短期的な成果より韓国文学の海外進出のための橋頭堡を築くことであり、ひいては素晴らしい税金の使い方として注目する必要がある。20年には翻訳院がドイツ語の翻訳を助成したキム・ヨンハの『殺人者の記憶法』がドイツ独立出版社文学賞を受け、支援の効果を体感できた。

 

 近年韓国の文芸書が日本で人気だと言われているが、日本小説の韓国での人気ぶりには及ばない。村上春樹や東野圭吾などは韓国でも最高の人気作家だ。年間1000点以上の日本の文芸書が韓国語に翻訳出版される。それに比べて日本で翻訳される韓国文芸書は、その1割に満たない。次回は、日本書籍の韓国での翻訳出版状況について紹介したい。

 


 

白源根(ベク・ウォングン)氏 1995 年から韓国出版業界のシンクタンク「韓国出版研究所」責任研究員、2015 年に「本と社会研究所」を設立し代表に就任。文化体育観光部の定期刊行物諮問委員、出版都市文化財団実行理事、京畿道の地域書店委員長、韓国出版学会の出版政策研究会長、韓国出版文化産業振興院のウェブマガジン「出版N」編集委員、ソウル図書館ネットワーク委員長、韓国文学翻訳院「list-Books from Korea」編集諮問委員、出版評論家、日本出版学会正会員など

 

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