【連載⑨:地元力発見!】「軽井沢で地域おこし」の意義(上)

2020年12月14日

「地元力」は遍在する

 

 筆者が地元力を語る際には、基本的な視点がある。地元には、その地に由来した特徴があり、それは独特な力、パワーが潜んでいるということ、その可能性を再確認したいということである。たとえ、いまは廃墟になっていても、かつてはそこに暮らしがあり歴史が隠されている。もしかすると、そこが遺跡に、あるいは観光地になる可能性と潜在性があるかもしれない。

 

 インターネットには、廃村やゴーストタウン、あるいは廃線・廃寺など具体的なアイテムを紹介するサイトがあり、共感する魅力がある。人々の「生き様」が想像できるからである。いまは、人的な、経済の事情で一時「休息」している場所や地域が確かにある。コロナ禍の時代、「光と影」―現在と過去、そして現在と未来―が共存し、変容が生まれている。それも、人々の、新たな「生き様」であり選択である。

 

 コロナ禍で社会不安のある今年、11月21日の土曜日、長野県軽井沢町で、その「地元力」を知るためのイベントを行った。正式なタイトルは、「公開勉強会/軽井沢を地域とした地域づくり・文化ふるさと快活事業」である。主催は、筆者の一般社団法人・洸楓座で、全国地域づくり協議会の助成事業として行った。

 

 タイトルにした《地域づくり》《ふるさと快活》の二つのことばを、「軽井沢」に重ねるために、筆者はじめ東京を活動の場としている人と、軽井沢で住み活動している人とで意見交換し、軽井沢の地域力についての認識を共有したいと考え、企画した。結果、軽井沢のもつ地域力は、独特で、地方の他所とは異なることを理解できた。成果のあるイベントであった。

 

 今回のイベントは、2部構成とした。第1部は《朗読/体験談》であり、第2部は《公開勉強会》とした。まず第1部について本号で紹介し、第2部は続号としたい。

 

観光地に求められる天災への備え

 

 

 第1部の《朗読/体験談》の演者として元・フジテレビアナウンサーの山川建夫氏(77歳)を起用した。朗読の素材には、寺田寅彦の『天災と国防』という短編の随筆を選んだ。1年前、長野県は台風19号で大きな被害を受け、軽井沢でも土砂崩れなどの被害があった。〝天災は忘れたころにやって来る〟という箴言の典拠は明らかではないが、寅彦の言とされる。

 

 別荘地として有名な軽井沢は、清澄な自然がその魅力である。明治時代に外国人宣教師がその魅力と価値を発見し、現在の軽井沢の地域力となった。軽井沢の代表的なシンボルに浅間山がある。その穏やかな稜線とは裏腹に噴火の証拠を示す火口からの山肌は、火山災害を警告する。

 

  信濃なる浅間の嶽にたつ煙 をちこち人の見やはとがめぬ 

 

 『伊勢物語』(第8段、信濃の嶽)で、在原業平は1200年前の平安時代から浅間の近隣に住む人々の馴れをこう詠んだ。浅間山のもつ噴煙は、軽井沢の地域力よりは、「地域特性」といえる

 

。 山川氏は軽井沢書店のブック&カフェエリアで、『天災と国防』を響きある声で読み終えた。この随筆は、昭和9年(1934年)に書かれた。大正12年(1923年)の関東大震災から12年後である。それからも何度も、これまで惨事を経験し繰り返す。寅彦は、本文で「人類は、科学的合理的な様式の発露を」、と結んでいるが、天と人間の力較べ&知恵比べの勝敗は決まっているようだ。

 

 山川氏自身も、昨年の台風15号で、市原市の自宅の屋根を損壊した。自然災害は、年々規模が大きくなり、しかも頻繁になっている。小泉環境大臣もいう。「天災は、常にやってくる。忘れる暇がない…。」山川氏は、自らの人生を、環境問題への実践と持続可能性への挑戦とし、過ごしてきた生き様と考えを、体験談として熱く語った。

 

 軽井沢町は、国際観光都市や国際会議都市として街を創生している。その前提には、安全と安心が第一の地元力となるはずである。このことを共通の理解として、目的とする軽井沢の《地域づくり》《ふるさと快活》に活かしていきたい。

 

佐藤建吉 一般社団法人「洸楓座」代表

 

【略歴】1950年山形生まれ。東京都立大院卒。元千葉大大学院工学研究科准教授(金属疲労専攻)。金属疲労の研究のほか、他分野のテーマの研究開発に努めるとともに日本各地の地域おこし活動に従事する。ローカル鉄道と地元の酒蔵のコラボで地域再生を図る地酒「鐵の道」の製造・販売を企画、すでに10件を超える銘柄を送り出している。一般社団法人「洸楓座」代表。「全国ふるさと大使連絡会議」理事