【新春寄稿】インセクツ・松村貴樹氏 個から湧き上がるローカリティ、トップダウンからボトムアップへ

2021年1月15日

インセクツ(大阪市)代表 松村貴樹氏

関西発 出版業界新春寄稿

チャレンジを続ける出版社と書店

 

 私は2005年に編集プロダクションLLCインセクツを創業し、09年より自社のメディアであるローカルカルチャー・マガジン『IN/SECTS』を発行している。これを書いているのは昨年11月末。まだ1カ月ほど20年はあるもののcovid―19で散々な年だった。「アフターコロナ」なんてことを言っているけれど、いつ到来するのやら。とは言え、悪いことばかりではなかった。昨年は新しい出会いもあり、編集プロダクションとして新たな領域へのチャレンジもあった。

 

 そして何より、これを読んでいる方々も感じていると思うが、本が売れた。その反面、定期発行の雑誌は厳しいところもあると聞いた。関西ローカルの話をすれば、そもそも少ない上に1誌が休刊、冬まで発売延期を余儀なくされている雑誌もある。

 

 自社のことで恐縮だが、16年からはじめた「KITAKAGAYA FLEA & ASIA BOOK MARKET」も台湾、韓国、香港、中国本土と東アジアの出版社や書店を呼んで開催するマーケットイベント&ブックフェアということも重なり、延期の末、ほぼ国内組のみの参加でオンライン開催とした。勉強もたくさんあったが、収入という意味では、リアル開催と比べて厳しいものがあった。

 

 そんなこんなで21年も幸先の良いスタートとは言えないかもしれないが、まずは、心機一転、みなさまには、あけましておめでとうございますと申し上げたい。これまでお付き合いいただいている方々には、本年もよろしくお願いいたします。弊社を知らないみなさまには、これからどうぞよろしくお願いします。

 

 未来の話をすると、今年は弊社にとって節目の年になりそうだ。前述の通り、編集プロダクションとしてのチャレンジに加えて、出版点数をようやく小規模流通の仲間入りレベルまで増やそうと準備している。

『関西のスパイスカレーのつくりかた』第2弾

 

 まずは2年前に発刊し、今も売れ続けている『関西のスパイスカレーのつくりかた』第2弾を1月刊行する。31店舗+関西のスパイスカルチャーに欠かせないシタール奏者、スパイス研究家、スパイスジャーナル編集長なども登場。レシピ数も副菜含め約60品、加えて32㌻増で価格は据え置き(本体1600円)という第2弾にふさわしい内容になっている。

 

 その後は、『IN/SECTS』のナンバリングの新刊を春と秋に、他にも台湾、韓国、香港、中国など東アジアの100名のイラストレーターによる書籍、語学書などなど多様に用意している。自分たちが大切にしている場所という意味でのローカリティと同時代性という意味での精神的ローカリティ、この2つのローカリティをこの先も推し進めていきたい。

 

  物事が大きくなればなるほど、トップダウンで決められるのが当たり前だと思っているけれど、そういう時こそ、個人のエネルギーやアイデアが実は面白くなったりするものではないだろうか。

 

 大阪の話をすれば、都構想という大きな渦に巻き込まれそうになったものの、(私的な価値観で言わせてもらうと)なんとか踏ん張った20年、個人から発信、発想されるアイデアは面白かった。「長いものに巻かれるな!」という反発からくるエネルギーかもしれないが、大阪の「個人」はまだまだ面白い(お笑いという意味ではなく)。

 

 しかし、企業となると急に「平均化」が著しく、駄洒落のようなアイデアしか通らないのが良くないが、個人に目線を置くとそんなことはない。そういった個人の面白さを私たちは、カルチャーというフィールドで誌面作りをし、世に送り出している。

 

 時にサブカル、ニッチなんてことを言われながらもなお、究極のローカルである個人を見続け、面白いアイデアやクリエイティビティを自分たちの手で掴んでいきたいと思う。改めて、21 年、どうぞよろしくお願いいたします。