【新春寄稿】レティシア書房・小西徹氏 「書店の未来は明るいはずだ」

2021年1月14日

レティシア書房・小西徹氏

 

関西発 出版業界新春寄稿
地域の出版文化を絶やさぬために

 

 私は、京都市内に複数店舗を持っていたレコード店に勤務し、会社が本とCDの店を開店させたのをきっかけに、書店業界に入りました。その後、300坪ほどの店舗を立ち上げ、運営を任されました。

 

 しかし、大型店舗で仕事をしながら、業界に対する違和感が日々増大していきました。利益率の低さ、大量送品、大量返本、見計らい配本、常備、延勘定など特殊な経理等々きりがありません。やがて書籍の売り上げに陰りが見え始め、欲しい本を配本してくれない取次悪者説が浮上してきました。三大取次とお付き合いをしましたが、確かにどの会社も信頼できませんでした。もちろん、取次だけが悪者ではなく、出版社、そして委託制度にあぐらをかいていた書店にも罪があるのは間違いありません。

 

 こんな状況でいいのだろうか? 店の売り上げは上がってゆくのに、情熱は冷めてゆくばかり。そして、自分で納得できる店を作ろうと、50歳半ばで退社し、数年後「レティシア書房」を開店しました。

 

 店舗の魅力の位置付けとして、積極的に取り入れたのがミニプレスと呼ばれる自費出版物と、取次を通さない独立系出版社の書籍でした。当時、ミニプレスが全国で広がってきた頃だったと思います。独自の視点で地域の文化や暮らしを捉えたものが沢山あり、DTPの技術向上で、個人でも見劣りのしない本が、各地で出てきました。

 

 東京発のワンパターンなトレンド情報に依存する一般雑誌に飽きていた読者が、そういったミニプレスに興味を持ったのも至極当然でした。各地で出されている雑誌を調べ、連絡し販売をお願いすることを日々繰り返しているうちに、当初は20種類ぐらいしかなかったミニプレスが、現在200種類を超え、なお増殖しています。

 

 地元京都の情報発信を、ひとりの女性がすべてやっている「気になる京都」は1号から4号までの通算売り上げが500冊を超えるまでになりました。また、ミシマ社、夏葉社、土曜社などの独立系出版社も次々と始動し始め、個性的な書籍を提供してくれます。

 

 当初は東北の「てくり」や香川発の「せとうち暮らし」、帯広発の「スロウ」など、地元の暮らし、文化紹介のものが多かったのですが、今やジャンルは多種多様です。店内にはギャラリーも併設しており、発行元主催のイベントや展示も行い、より多くのお客様にその面白さを知ってもらいたいと努力しています。

 

 もう一つ、私が大事にしていることは、「ゆっくりと仕事をする」ということです。大型店舗の店長時代は業務が広範囲にわたり、一冊一冊を吟味することなく、聞いたことのない著者、知らない出版社の新刊など即返本したり、版元営業ともゆっくり話すことなく、番線を押していました。

 

レティシア書房 店内

 

 店には、古書、新刊、一人出版社の書籍などが並んでいます。本好きのお客様との会話や、書評などを吟味しながら、仕入れを行っています。そして、これはと思う本はHP内「店長日誌」やインスタグラムでの紹介を心がけています。ギャラリーがあるため、様々な作家が個展を開催しています。本を見に来られた方が作品に魅せられたり、その逆のこともよくあります。

 

 また、数は少ないですがCD、LPの販売もしていて、店内で流れている音楽を購入されたりもします。来店されたお客様に楽しんでもらえることこそ、何よりも大事なことだと信じています。

 

 2021年でレティシア書房は10年になります。この間、各地で個性的な書店がどんどん開店しています。店主の思いが詰まったお店が増えるという意味では、本屋の未来は明るい、いや明るくならなければならないと思っています。

 

【訂正とお詫び(1月15日)】

 記事初出時、「岡山発の『せとうち暮らし』」と記載していましたが、正しくは「香川発の『せとうち暮らし』」でした。お詫びして訂正いたします。