創業90周年 オクショウ(兵庫) 田村恵子さん「できるコトの『一歩上』が成功のカギ」

2020年9月11日

100周年に向けて「挑戦」続ける

4代目社長の田村恵子さん

 

 兵庫県南東部の三田市でブックカフェを営むオクショウは、1930年(当時は三田町)に奥書林を創業。出版の最盛期も不況も経験し、また、市の大規模開発が同店の経営に大きな影響を及ぼすなど、幾多の困難を乗り越えてきた。2015年、ブックカフェに業態転換後は売り上げを3倍以上に押し上げ、大きなターニングポイントとなる。しかし、4代目社長の田村恵子さん(36)は「今のままでは10年後は消える」と、危機感を抱く。同社90年の歩み、100周年に向けての方向性などを取材した。

【堀雅視】

 


 

翻弄された都市開発

 

「本となごみの空間 オクショウ」外観

 

 呉服商「奥庄」を営んでいた田村社長の曾祖父、奥庄太郎氏が1930年に奥書林を開業、65年に法人化、99年、営業譲渡の形でオクショウとなる。

 

 三田市は80年代のニュータウン開発で人口が爆発的に増加し、増加率が10年連続日本一になるなど知名度も向上。街は活性化し、大型商業施設も進出、地元の小売店が続々とテナントに入るなど内外ともに好況に沸いた。88年には3代目社長の奥則夫(父)氏が個人営業で駅前の施設に、93年にも商業施設に出店するなど拡大していく。

 

 しかし、急激な発展は反動も大きく、現在は移住者らの高齢化が進み、子ども世代は神戸や大阪など、より利便性の高い街を求め、人口も減少傾向。経済面も複数の商業施設が建てられたことで供給過剰に陥り、かつての活気は失われた。

 

 93年に開店した店では施設の客層に合わせ、コミック、CDなどを中心に若者向けの商品構成にしたが、この店づくりが裏目に出る。単価の高いCDをはじめ、甚大な万引き被害、また、CD取り扱いのノウハウが少なく、在庫管理などで苦慮する。

 

 さらに、施設のリニューアルで人通りの少ないエリアに移ったことが追い打ちをかけた。1カ月100万円の赤字が出るなど、わずか6年で閉店。

 

 もう一つの店舗も2010年に閉店し、祖父の他界により閉めていた本店の地で翌11年に復活開店した。

 

音楽の道から書店経営へ

 

 現社長の田村さんは、音楽関係の専門学校を卒業し、コンサートなどの音響の仕事に就いた。音楽好きが高じてレコード店でも勤務する。

 

 この頃、「『販売する』という楽しさが見えてきた」と田村さん。神戸で一人暮らしをしていたが、両親の年齢も考え、後継者の道を歩むべく、09年、地元三田に戻った。

 

 書店業界では新参だったが、積極的に書店仲間を増やし、情報交換、勉強に尽力し、また全国各地の他業種にも足を運び、ノウハウの吸収、新ビジネスのヒントを模索していく。

 

「本となごみの空間」盛況

90周年記念で雑貨20%オフ、福袋も人気

 

 バイタリティ溢れる行動力からブック&カフェの形態が、自店にマッチするのではと、ひらめく。レイアウト、座席数、メニュー構成など試行錯誤を繰り返す。コミックなどは大幅に減らし、主要客層の女性向け実用書や雑誌、絵本を中心にし、15年、「本となごみの空間 オクショウ」をオープンさせた。

 

 市役所などが近いことから、男性向けメニューや本も取り入れ、営業時間の変更やモーニングの強化など改善しながら、田村さん自身が面白いと感じた本は買い切りでも恐れず仕入れる。

 

本に囲まれ憩いの空間演出

 

 ブックカフェは早々に軌道に乗せたが、「現状維持では衰退するのみ」の信条を持つ田村さん。雑貨のスペースを縮小し、カウンター席を増設、壁一面に本を並べた結果、飲食客が目の前の本を手に取り、そのスペースの本が店内で一番売れるなど常に改善を怠らない。

 

 雑貨は自ら展示会などに出向き、こだわりを持って仕入れる。則夫さんが育てた野菜や、母・好美さん自家製のシロップなども好評。モーニングメニューでは「自家製パンのセット」、ランチは「ハンバーグランチ」などが人気。ブックカフェ前と比較し、4倍近い売り上げをあげている。

 

さらなる進化必要

 

 そんな好調な田村さんに100周年に向けての気持ちを聞くと、意外に「現状維持では間違いなく当店は存在していない」と語る。「母が料理部門を仕切っているが、年齢面でも厳しい。レシピだけなら私もできるが、ほかの業務が疎かになっては本末転倒。最低賃金もどんどん上がり、これ以上、人を雇う余裕はない」と危機感を募らせる。

 

 「現状の利益率確保を考えれば、リアル店だけで突き進むのは限界」とし、雑貨と本をコラボしたサイト開設などの構想を描く。「ベビーギフトなど面白いと思う。できれば自社でやってみたい」と話す。夫の真吾さんは、書店には携わっていないが、IT系の仕事を営んでいることから、デジタル方面での心強いパートナーとして、オクショウの新しい展開に期待がかかる。

 

 三田市は障害者施設が多く、同社も取引があることから入所者手作りの木製品などを並べる。「福祉施設との連携も広げていきたい」と、地域密着、社会貢献にも引き続き注力していく。

 

失敗を糧に

 

 ブックカフェが成功したことについて、田村さんは「自分たちが『できるレベル』より、一歩上がった所を少し背伸びして努力すればやれるんだと実感した。背伸びし過ぎると、慣れないCDを扱ったときのように失敗する。私たちの『一歩上』はカフェと料理だった」と語る。実体験ゆえにどんなビジネス講義より説得力があった。

 

□本となごみの空間 オクショウ=三田市中央町16ー3