ポプラ社 「破格の新人」が書いたエンタメ小説『ニキ』刊行、著者・夏木志朋さんらに聞く

2020年9月9日

四六判/ 318 ページ/本体1500 円

 

 「破格の新人、現る」――。ポプラ社は9月7日、2019年度の「第9回ポプラ社小説新人賞」を受賞した文芸書『ニキ』を刊行した。著者は、この本がデビュー作となる夏木志朋(なつき・しほ)さん。同社が「破格」と称するように、重厚なテーマをエンターテイメント小説として書かれた作品は、その鋭い筆致とともに、新人賞選考の早い段階から高く評価されたという。新刊の刊行にあたり、夏木さんと担当編集の野村浩介氏に話を聞いた。

【増田朋】

 


2019年度「第9回 ポプラ社小説新人賞」を受賞

『ニキ』の著者・夏木志朋さん

 『ニキ』は、「生きづらさ」を抱えた高校生と美術教師の奇妙な関係を描いた作品。二人の悪戦苦闘がスリリングに書かれ、重厚で多層的なテーマを題材にしているにもかかわらず、最後まで一気に読ませる内容になっている。

 

 「ポプラ社小説新人賞」は、エンターテインメント小説を対象とし、ジャンルは問わない。前身のポプラ社小説大賞を含めると、小川糸さん、伊吹有喜さん、向井湘吾さん、寺地はるなさんなど多くの人気作家がデビューしてきた。そして、昨年の第9回大賞を夏木さんが書いた『Bとの邂逅』が受賞。タイトルを『ニキ』に変え、このほど刊行された。

 

 選考時、夏木さんの作品は「新人ながら、すごい書き手が現われた」と、関係者らの間でも話題になったという。

 

 選考にもあたった担当編集の野村氏は「新人賞選考の際、ともすると著者の可能性を見出そうとするような読み方になりがちだが、この作品にはすぐ引き込まれた」と振り返の人物造形の深さに、驚嘆しながら読み進め、読み終えて呆然とした」と絶賛。

 

 「読後はさわやかな印象もあったり、何らかの違和感だったり、人によって違う反応がある作品。極めて重要で現代的なテーマを持ちつつ、とても完成度の高い形で書き切っている。次回作は何が出てくるのか分からないという、著者の可能性の大きさも感じた」と評価する。

 

 夏木さんも「この作品を絶対に本にしたいという強い気持ちがあったので、受賞のうれしさと同時に、自分の中のマストを達成できた安堵の喜びがあった」と話す。

 

 夏木さんにとって、今回の作品が初めて書いた長編小説。「もともと普通に会社に勤めていて、作家になるなんて思ってもいなかった」。5年ほど前、会社で書いた営業トーク用のスクリプト(台本)を上司にほめられ、「もっと文章がうまくなりたい」と思ったのがきっかけだった。

 

 野村氏は「作家もライターも、それぞれ求められるスキルやスタイルがある。それが本当に読者から求めているものか、正解は分からない。とはいえ、小説を書くために、さまざまな高度な技術も必要。そこが謎なのが夏木さん」と、その高い筆力に驚きを隠さない。

 

書店員からも「傑作」との声

 

 新人作家が書いたデビュー作の『ニキ』。だからこそ「ぜひ書店員さんの手助けを」と夏木さんは願う。「タイトルも少し分かりづらく、ネタバレ防止で意図的に内容を伏せている部分もある。しかし、書店員さんにサポートしてもらうことで、きっと伝わるのでは」と現場の力を信じる。

 

 実際に、刊行前に読んだ書店員の声も興味深い。「痛くて、もう二度と読み返す勇気は出ないかもしれないと思いながら、この小説が好きで好きで仕方ないです。傑作だと思いました」「季節遅れの『裏』課題図書として最高の一冊だと思う」「イヤミスならぬイヤ青春もの?『イヤハル』とでも名付けますか」――など。こういった書店員のコメントを見れば、この本を手に取る人も増えそうだ。

 

 これからも「おもしろい話を書いていきたい」と夏木さん。「エンタメだが、人間ドラマもしっかり描ける。その二つを両立できる作家になりたい」と話す。次の長編小説も書き始めている。デビュー作での高い評価が次へのプレッシャーではと聞くも、「大丈夫」と笑顔を見せた。