双葉文庫ルーキー大賞 第1回受賞作『遥かに届くきみの聲』、初版2万部で発売

2020年8月7日

ルーキー大賞第1作となった『遥かに届くきみの聲』

 双葉社は8月5日取次搬入で双葉文庫ルーキー大賞の第1回受賞作『遥かに届くきみの聲』を発売した。書店からの事前反応も良好で、希望数を積み上げて初版2万部に達している。いつでも募集中というこの賞には多くの応募があるといい、既に2作品の刊行も決まっている。

 

 著者の大橋崇行氏は大学で日本文学の教鞭を執るかたわら、ライトノベルを執筆してきた。今回の作品は、これまでとは作風が全く違う高校の朗読部を舞台にした青春小説だ。

 

 「著者は、企画として出しても出版社に採用されないと思って応募したようですが、読んだらすごく面白かった。朗読についてよく調べていて、かえって想いが詰まっているのでは」と話すのは、応募作を大賞に選んで文庫化した文芸出版部「小説推理」「Webカラフル」編集部・田中沙弥さん。

 

 同賞はウェブのみで受け付け、通年募集締め切りなし。「400字詰め原稿用紙200~400枚以内」という分量制限はあるものの、ジャンルは「日本語で書かれた広義のミステリー及びエンターテインメント小説・時代小説」と幅広い。

 

 特に表彰や賞金などはなく、受賞作の発表も応募から半年以内に連絡をするとしているだけだが、大賞を受賞すると即文庫で刊行する。

 

作品を編集者が選び文庫化

 

 選考するのは8人いる文芸出版部の編集者。彼ら以外の社員も希望すれば応募作を見ることができる。著者がつけるキャッチフレーズや粗筋をみて面白そうだと思えば読んでみて、行けるとなれば編集長と相談しながら文庫化する。

 

 「やはり編集者が面白いと思うことが一番大切。この賞は一人の編集者が強く押せば出版できる。一人一人の熱意を大事にする当社ならではの試み」と同賞を企画した文芸出版部・秋元英之編集長。

 

 昨年6月に募集を開始したが、既に500近くの応募があり、小説推理新人賞を超える応募数だ。「始めた当初は異世界ものばかりだったが、ネットで拡散され、多様な作品が集まるようになっている」(秋元編集長)という。

 

 応募から結果まですべてネットで完結する同賞。「400字詰めの意味とは」といった問い合わせがあるという。応募にあたって年齢、性別などの記載は不要で、先入観をもたないよう応募者の情報は必要最低限にとどめる。

 

 「想像していなかった面白い作品と出会える良さがある」と田中さんは今後の応募作品にも期待する。

 

YouTubeで公開された『遥かに届くきみの聲』のPV

 

 『遙かに届くきみの聲』は事前にプルーフ版を作成して書店に読んでもらったところ良好な反応が多く、多くの希望数が集まった。発売時に300冊で展開する大型書店もあるという。広告宣伝は新聞が中心になるが、テーマの朗読に合わせて声優を起用した動画の配信なども予定している。

 

□文庫判/296㌻/本体630円

【星野渉】