『コーヒーが冷めないうちに』が都市封鎖下のイタリアでベストセラー

2020年5月21日

『コーヒーが冷めないうちに』イタリア語版の表紙

 

 新型コロナウイルスの感染拡大により大規模な都市封鎖が行われているイタリアで、日本の文芸書『コーヒーが冷めないうちに』(川口俊和著)が売れ行きを大きく伸ばしている。同作は世界各国でベストセラーとなり、パンデミックのなかでも読者は広がっているようだ。

 

 同作品は2015年にサンマーク出版が刊行し、日本で85万部を超えるベストセラーとなり、映画化もされた。海外では韓国、中国、タイ、台湾、ベトナム、ドイツ、チェコ、ハンガリー、イタリア、イギリスの10言語で翻訳出版され、さらに7言語での刊行が決まっている。

 

 イタリアでは3月12日に出版社Garzantiが発売。都市封鎖実施直後で書店も休業に追い込まれ、ほとんど発売時のPRはできなかったという。しかし、サンマーク出版では通常刊行直後に送られてくる発行部数証明書などが封鎖の影響で届いていないため正確な部数などはわからないというが、現地の大手新聞「Corriere della Sera」のランキングで5月第1週に翻訳小説の9位、5月10日付では3位に入ったという。

 

 この売れ行きについて同社国際ライツ部の小林志乃氏は「通常こうした状況で強いのは、すでに名前が売れている著名作家の作品だが、外国、しかも日本の新人作家のデビュー作がここまで売れるのは奇跡だと、仲介にあたったエージェントも驚いている」と話す。

 

イギリスでは独立系書店が選ぶ文学賞候補に

 

 また、要因として昨年刊行したイギリス版がベストセラーになった影響が強いとみている。「イタリアでの刊行に際してもそのことを強調し、イギリスのメディアに載った好意的な書評をPRに使った」という。

 

 イギリス版は同国の大手書店チェーン「ウォーターストーンズ」が重点商品として店内に特設コーナーを設けるなど大々的に展開、数カ月間にわたり翻訳小説ベスト3位内をキープ。また、独立系書店が選ぶ文学賞「Indie Book Awards 2020」のノミネート作品に選ばれ、イギリス版が流通しているシンガポールでもベストセラーに入っている。

【星野渉】