サンライズ出版90周年記念インタビュー  岩根順子社長に聞く、「三方よし」の精神で滋賀を輝かせる

2020年5月19日

サンライズ出版・岩根順子社長

 

 湖国「滋賀」の自然、文化、歴史をシリーズ化した「淡海(おうみ)文庫」など滋賀の関連書籍を中心に出版するサンライズ出版は、現社長である岩根順子氏の父、岩根豊秀氏が1930年に謄写印刷業の「サンライズスタヂオ」を創業したことに始まり、自費出版受注業への参入、本格的な出版活動と紆余曲折を経て今年で90年を迎えた。岩根社長に滋賀で出版活動を続ける意義、90周年記念出版の概要、100周年に向けて抱負、方向性などを聞いた。

【堀雅視】

 


 

求められるコンテンツ近江から発信

サンライズ出版本社(滋賀・彦根市)

 

――印刷業から出版社に変遷していった経緯を教えてください。

 

 私は創業39年目の1969年に入社。すでに印刷技術は謄写からオフセット時代に入り、その後、ワープロ、パソコンの登場と大変革してきました。

 

 父が創業した印刷業の主な得意先は官公庁。技術の進化に伴い、新機械の導入や工場新設など事業を拡大していきましたが、繁閑の差が激しく苦慮しました。そんな中、父の提案で自費出版の受注を始め、それが93年からの本格的な出版事業参入のきっかけとなりました。

 

淡海文庫100冊目指す

 

――淡海文庫はどのように生まれたのですか。

 

 89年に滋賀県出身の民俗学者橋本鉄男(1917~96)氏の著作刊行に携わり、本づくりの基本を教わりました。橋本氏から「『のじぎく文庫』や『岡山文庫』のように各地域の歴史や文化を発信するシリーズ本が必要だ。書き手もいる」と背中を押され、さらに「会員組織をつくれば購読者も固定できる」と言ってくださいました。

 

 橋本氏は著書などで「近くのものを遠く見、遠くのものを近く見る」という言葉を残しておられます。これは「小さな世界でなく、広い世の中に目を配り、できる限り他所との関わりが必要」という意味。この視点で94年、購読会員の組織「淡海文化を育てる会」を発足し、同文庫がスタートしました。

 

――現在、淡海文庫は何点発刊されていますか。

 

 最新刊『現代語訳近江の説話ー伊吹山のヤマトタケルから三上山のムカデまで』(福井栄一)で65冊目です。過去、京都の出版社から近江文化のシリーズ本が30冊刊行されていました。

 

 やはり地元の版元としてこのシリーズを奪い取りたいという気持ちが強かった。刊行点数100冊を目標に、育てる会、また当社一丸となってモチベーションを高めて取り組んでいます。

 

著者、著作に光を当てたい

 

――多くの受賞作がありますが、印象深い作品は。

 

 作品に光が当たり、著者が評価されることが何よりうれしく思います。

 

 2002年に第5回日本自費出版文化賞の大賞を受賞した『北近江 農の歳時記』(国友伊知郎)、17年にブックインとっとりの第30回地方出版文化功労賞の奨励賞を受賞した『再考 ふなずしの歴史』(橋本道範編著)の両作品は、長い歴史の中でこの地域の人々の暮らし、息づく生活文化に照準を当てられたことがとてもうれしかった。著者が大きな舞台で活躍されるお手伝いができることにやりがいを感じています。

 

記念出版は貴重な日本画作品集

『近江の画人ー海北友松から小倉遊亀まで』6 月下旬刊行予定。B5判変型/168㌻/本体4800 円

 

――90周年記念出版の概要を。

 

 80周年のとき刊行した県内所蔵の彫像をまとめた写真集『近江の祈りと美』のように、やはり滋賀の象徴的な作品を出したいと考えていました。

 

 しかし、今回は、現在リニューアル整備のため休館中の滋賀県立近代美術館、また老朽化のため閉館した県立琵琶湖文化館にスポットを当てようと企画を練り、両館から全面的な支援も受け、『近江の画人―海北友松から小倉遊亀まで』(石丸正運編)を6月に刊行します。

 

――どのような内容ですか。

 

 石丸氏は近代美術館の元館長。滋賀には多くの画人が誕生し、活躍してきました。80年の石丸氏による『近江の画人たち』以来、滋賀の画人を集めた作品は出ていないので、愛好家には喜ばれると思います。

 

 画人たちの新しく判明した事実も加え、石丸氏の弟子のような存在の若い研究者に執筆いただきました。滋賀ゆかりの日本画鑑賞の手引書としても貴重な作品集になります。

 

先人の伝統、文化を伝える使命

 

――滋賀で出版活動を続ける意義は。

 

 実現していませんが、歴代知事らが、「近江県」や「琵琶湖県」に改称してはどうかという提案があったほど「近江」や「琵琶湖」は認知されています。しかし、私どもが使用している「淡海」は読みづらいですが、もともと「近つ淡海(あわうみ)」が語源となり、「近江」となりました。

 

 「淡海文庫」は、そのような滋賀への強い思いと、滋賀を輝かせようという志を持ってスタートしています。この豊かな自然の中で先人たちが築いてきた伝統、文化を今に生きる私たちの言葉で伝えることが使命。京都の文化を支え、日本の歴史を形成してきた地という自負を持って今後も良書を発行し続けます。

 

――100周年に向けて。

 

 「三方よし」で知られる近江商人は「商いには『変えてはいけないもの』と『変えるもの』がある。変えないものは『企業理念』で変えるものは『時代に呼応した業態変革』」といいます。

 

 当社も創業者の「お客様が満足する仕事を全うし、地域社会に役立つ仕事を誠実に行う」という精神は守り続けながら、時代に即応する技術革新を進め、社会、読者が求めるコンテンツの迅速な提供をここ近江の地で邁進していきます。

 


 

岩根順子(いわね・じゅんこ)社長

 【略歴】1948 年生まれ、滋賀県出身。69 年滋賀大学経済短期大学部卒業後、サンライズ(印刷業)入社。81 年創業者父死去に伴い代表に就任、82 年サンライズ印刷株式会社を設立し代表取締役、03 年サンライズ出版に社名変更した。

 

 同氏は本業以外でも、近江商人の特性「売り手よし」「買い手よし」「世間よし」の精神を企業経営に生かすなど社会に広める活動を行う「三方よし研究所」の設立に参画し、現在は専務理事を務める。97 年には「淡海文庫」の創刊が滋賀のイメージアップに貢献したとして、県よりブルーレーク賞を授与されている。