オゾミスの新作『ママ』 神津凛子さん「人間誰でもあるドロドロを書きたい」

2020年1月30日
 

『ママ』(講談社)

 世にもおぞましいミステリ「オゾミス」の書き手、神津凛子さんの新作小説『ママ』が講談社から1月8日に発売された。刊行前には、作品のレビューやメッセージを出版社に送り本のプロモーションを応援できるサイト「NetGalley」で、書店員から数多くのコメントが寄せられた期待作。

 

 神津さんは、2019年3月に『スイート・マイホーム』で小説現代長編新人賞を受賞。選考委員の伊集院静氏が「ここまでおぞましい作品に接したのは初めて」と絶賛し、単行本は異例の4刷に。「オゾミス」とはその言葉を参考にした造語だ。

 

 『ママ』の主人公は42歳のシングルマザー、後藤成美。事故で夫を亡くし娘ひかりを一人で育て、スーパーの総菜づくりで生活の糧を得る。近くに頼る人も蓄えもなく生活は苦しいが、娘ひかりの成長だけが生活のすべてだった。

 

 そんな厳しくも平穏な日々に突然、不条理が訪れる。まったく知らない男による拉致監禁。自分に身に覚えがないのに、男にはそうするだけの理由があった。

 

 誰が、いったい何のためにこんなおぞましい行動をするにいたったのか。その謎を自問しつつ、登場人物それぞれの「母親」とはどんな存在であるのかを描いた。

 

 前作『スイート・マイホーム』同様に、思わずページをめくる手が止まってしまうほどのおぞましい描写がある。ただ、神津さんが描くおぞましさとは、グロテスクな描写や得体のしれない、理解の及ばない存在に対して抱く感情だけではない。何気なく発した言葉、ふとした表情が相手を深く傷つけ、その人間関係を一変させてしまう「凶器」にもなりうるおぞましさだ。

 

言葉だけで死に追いやるおぞましさ

 

神津凛子さん

 神津さんは「読みかえして気づいたのですが、成美はそんなつもりで言ったつもりはないのに、犯人にとっては人生が変わってしまうほど強烈なことを言っていたりする。自分も過去にもしかしたら、そういうことを言ったかもしれないという反省もありました。何も武器を使っていないのに言葉だけで死に追いやってしまう。でも本人は気づいていないので罪の意識もない」と話す。

 

 担当編集者は「最後まで読むと、タイトルの意味がわかります。神津さんなりの母親とはどんな存在なのか、神津さんはこの世界をのぞいている感じに小説を書いているので、そんなに意識していないとは思うが、自然に現れているのでは」と説明する。

 

 

「オゾマシマシ」帯

 初版出荷時から、販売の仕掛けとして単行本に巻く「オゾマシマシ」帯を製作した。さらに、作中の強烈な惨たらしいセリフを赤字で抜き出し、単行本のおぞましさも際立っている。

 

 神津さんは「人間誰でもきっとドロドロしたところイヤな面がある。そういうところが書いていきたい」と今後の展望を語った。