【トップインタビュー】SHOWROOM・前田裕二社長

2019年8月12日

前田裕二社長

 1987年生まれの32歳。母を亡くし親戚に預けられた小学6年生のころ、小遣いを稼ぐために駅前でギターの弾き語りを始めたところから経営者としての才覚が芽吹く。外資系投資銀行で目覚ましい成績を上げるが起業を決意。ストリートでの原体験から「あらゆる才能にスポットライトを当てていく」ビジネスを発想し、今や時の人に。デジタル化の反動で必ずもう一度紙の時代がやってくるという、SHOWROOMの前田裕二社長にお話しを伺った。

(聞き手 山口健)

 

 

 

 

 


 

ネットで路上パフォーマンス

 

――「SHOWROOM」はどんなサービスですか。


 端的に言うと駅前でギターケースを広げている路上パフォーマンスをインターネット上に持ってきたものです。


 アイドルやタレントの卵だという人たちには芸能事務所に入ってテレビを目指す人もいれば、路上に立って地道にファンをつかまえていく人もいますが、「SHOWROOM」は、自力でファンを惹きつけたいと思う人向けのサービスです。


――アイドル志望者が多いのですか。

 

 多いのはアイドル志望の子たちとミュージシャンやモデルの卵です。最近はお笑い系も増えていますね。


――演者はどうやって対価を得るのですか。

 路上パフォーマンスと表現したのは、まさにマネタイズの方法が、感動を与えてくれた人のギターケースにお金を入れ込む感覚の、プリミティブなエンタメのあり方だからです。


 僕らはバーチャルアイテムやギフトと呼んでいますが、見ている人が演者のルームで花束などのアイテムを飛ばしたら、我々がその一定割合を手数料としていただき、残りを演者側・芸能事務所様にお戻します。これを「ギフティング」と表現しています。

 

――女性の利用が多いのですか。


 元々はアイドルや音楽、声優の女性が多かったのですが、今は男性、お笑いの人も増えています。あるお笑い芸能事務所では、毎月の配信者が300人を越えています。プロのお笑い芸人でもバイトや違うことで生きている人たちが多い。そんな人たちがエンタメの原点に立ち返って、芸事でファンを喜ばせて、そこから何らか対価を貰えるような場が作れたら、という思いです。


――無料で見るのとアイテムを贈るのでは差があるのですか。


 SHOWROOMでは、オーディエンスがバーチャル上でアバターとして可視化され、たくさんバーチャルアイテムを贈る人は前のほうにせり出してくる仕組になっています。ユーザーとしてのランクが上がると、強いアバターを着られるようにもなります。


――アバターは自分で作るのですか。


 レベルアップで貰えるアバターに加えて、演者が描くものがあります。ファン向けにTシャツをつくるのと同じで、演者が描いたアバターをファンが着ているのは、ライブ会場でみんな同じTシャツ着るのと近い感覚なのでしょうか。

 

自分の「中」から事業をつくる

 

――なぜこういうサービスを始めようと考えたのですか。


 僕は小学生の頃から駅前でギターの弾き語りをしていましたが、そのときにお金を入れてくださるお客さんの顔がすごく幸せそうだったのが原点です。


 その経験から、ネットだろうがリアルだろうが、人間が介在している以上は心を動かすものがお金を生みだすと確信するようになりました。


 事業のつくり方は自分自身の「中」を見てつくるか「外(マーケット)」を見てつくるかの2つあると思います。


 「フィンテックが盛り上がっている」とかマーケットの潮流にのったつくり方もありますが、長く事業を続けていこうと思ったら、自分の事業が世の中に果たしている価値が、自分が果たしたい価値とリンクしているのかが大事なのだと思います。


 僕自身、早くに親を亡くし、すごく貧しかったこともあり、ピラミッド構造の底辺にいたかもしれない人たちが、僕がつくった仕組によって上にいけるとしたらすごく素敵だなという思いで事業を立ち上げました。

 

次のビジネスは「可処分“精神”」の奪い合いに

 

 

――著書「人生の勝算」で、サービスの基本的な考え方が「ヒト消費」だいわれていますね。


 消費の形態が「モノ」から「コト」に移り、さらに「ヒト」に移る感覚があって、社会の成熟度が増すほどステップが進んでいくと思います。


 具体的には、コンビニにバーチャルキャラクターのパネルを置いて、スマホで遠隔から動かす実験をしています。裏側の人間はカメラで見ているので、個別のお客さんに話もできる。これはAIではできない仕組みです。


 無人化すると寂しいですから、人と人とのつながりを感じる温かいものを入れたほうがいい。社会はさらに効率化していくと思うので、人の心を埋めるサービス設計をしています。


 「乾けない社会」という表現がありますが、僕らの10歳ぐらい下の子たちは、「勝つ」とか「お金持ちになる」という感覚ではなく、「社会に対してどんな価値貢献をしてるのか」という感覚になっていると思います。給料はそれ程高くなくても、自分が社会に対して何らかの意味をもたらしていると感じられる瞬間がうれしい、という「感情報酬」とか「意味報酬」の比率が上がってると感じています。


 社会に渇望がなくなるなかで、企業の競争は「可処分所得」の奪い合いから「可処分時間」の奪い合いに変化している。次の変化が起きるとしたら「可処分精神」の奪い合いになる。そうなれば心を惹きつけられる主体がビジネスで勝つんだろうと思っています。

 

人口減っても人格増やせる


――「SHOWROOM」以外のビジネスはいかがですか。


 生身の人間じゃなくて、「魂の人(中の人)」がもう1人の自分になって発信する、バーチャル領域の仕組が伸びていて、当社としてもそこに投資しています。


 「魂」がすごく暗い子でも、キャラを与えると別人になります。僕はここに人類の可能性を感じます。


 アメリカの証券会社で働いているときに、アメリカ人に日本への投資を勧めると、人口が減る国の株は長く持てないとしばしば言われました。


 そのときに、日本においては、「人口」が減る中でも「人格」が増えていく可能性があるのでは、と気がつきました。SNSも複数の人格でやっている人が多くいるのが日本の特徴ですよね。人口は減っても人格の数が増えていけば、個人が世の中に提供できる経済的な付加価値が増えるんじゃないかというのが今の仮説です。


 例えば、僕は読書が好きなので読書の話をすごくしたいんですけど、前田裕二のフォロワーの中には、急に読書の話ばかりしたらうざいと思う人もいるかもしれない。でも、別の人格、アカウントをつくって読書のことをしゃべったら、そこに別の経済圏がひもづいていくはずです。

 

『メモの魔力』100万部目指す

 

――本も出してベストセラーになっていますね。


 2年前の6月に出した『人生の勝算』は10万部ぐらい、去年の12月に出した『メモの魔力』は37万部です。100万部いこうと思ってるのでまだ37%という進捗率ですが(笑)。


――どちらも幻冬舎で発行されてますね。

 

 たまたま見城(徹社長)さんとのご縁もありましたし、『人生の勝算』のインタビューのときに『メモの魔力』の話をしたら、内容がマニアックすぎるので別にしようと編集者と話して、満を持して出した感じです。


 いまは『人生の勝算』などをベースにした漫画をつくっています。ストーリーを主にして、その中にビジネスの要素をちょっとだけ入れようと思っています。


――いつごろ出ますか。


 夏に『メモの魔力』のプロモーションでテレビに出たり、いろいろ仕掛けるので、それが終わった秋ぐらいにと思っています。


 また、子ども向けに広げたくてドリルというか、小学生や中学生向けの『メモの魔力』のような本も書いています。

 

これからは「物質の価値」が評価される

 

――若い人は新聞や本を読まなくなったと言われますが、どのようにどう感じておられますか。

 

 これからむしろ物質として価値がある、手触り感があるものに、人々が価値を感じるようになってくると思います。


 例えば、VR空間で世界中どこでも旅行に行けるアプリがあっても、実際にやってみると、やはりリアルで見たいから、今度の休みに見に行こうという気持ちになる。つまり、デジタル上で体感してもリアルに人が流れていく。


 本もそうです。『メモの魔力』をネットで全文公開しても本の売り上げは変わりません。むしろ増えるケースの方が多い。


 リアルの本には、例えば『メモの魔力』なら、カバーを外すと僕の実際のメモが敷き詰められていたり、遊びがある。所有する喜びを提供しているのです。それはデジタルでは中々作りにくい。そこに価値があると思っています。


――新聞はどうでしょうか。

 

 ニュースメディアとしての新聞にとって今は簡単な時代ではないと思います。フローの情報は即時性の高いネットに代替されがちなので。。


――しかし新聞、特に地方紙には、ネットに載らないようなローカルで日常的な情報といいますか、前田さんの言葉を借りれば「余白」のようなものを感じますが。

 
 まさに、「余白」は大事ですね。しかし、「余白」にも、ただ空いているだけの「余白」と、周りの人がつい埋めたいと思える前向きな「余白」があります。後者の、「前向きな余白」がないとコミュニティーは育ちにくい。


 そういう意味で、新聞はフローの情報以外を載せることが大事かもしれません。ファクトだけ載せるなら、スマホのほうが早いし正確だと思うので、それよりも深い洞察を掲載するとか、記者という体温を感じる人間が思うとか。


 新聞をわざわざ読む「理由」をつくっていかないとダメなのかな、思います。「余白」を活かしたより身近なインタラクティブコンテンツを増やすとか、もう少し記事を書いている人を前面に押し出すとか、そういうことなのかもしれないですね。

 

書店員にスポットを当てる、「ヒト」消費へ

 

――ネットに押されて書店数が減少していますが、書店活性化のために、そうした「余白」といった、本好きな書店員が発信していくようなことも考えられますね。

 

 まさに。僕だったら、書店員を強烈にキャラ立ちさせていくと思います。そのキャラにファンをつけてサロン的にコミュニティを広げ、「この本屋に本を置けば絶対売れる」というような、お祭り騒ぎを仕掛けていきたいです。


 渋谷の道玄坂にある「BOOK LAB TOKYO」もコミュニティー型の本屋づくりをしていて、置いてある本の数こそ少ないですけど、ファンと僕らでディスカッションをする朝会とかをやっていて面白いです。


――なるほど、まさに「ヒト」消費ということですね。

 

 書店員が発信することがとても大事だと思います。やはり人間が出たほうがいい。それは書店員だけではなくて編集者でもおなじことだと思います。


 僕の本は幻冬舎の箕輪厚介さんが編集していますけど、箕輪さんが出てくるまで編集者という職種は広く認知されてなかった気がします。


 本をつくる上で編集者が極めて重要なパートを担っていることを一般の人は知らない。でも、箕輪さんが名前を売ることによって、みんなが編集者を知ったと思います。


 書店員も世の中からすると本屋の店員って感じなので、書店員さんに改めてスポットライトを当てるような動きがでてくると面白いでしょうね。


――書店員は大事ですね。


 実際に本を選んでいるのは書店員のみなさんですし、接客して勧めるのも、ポップを書くのも書店員です。


 僕も本を出して本屋さんを100店舗回ろうとしています。まだ30店くらいしか行けていませんが、地方に行って書店員さんに集まってもらって飲み会も開きたいと思っています。実際に会ってお酒を酌み交わす、アナログが今や逆に最強ですよね。
僕は、これから今以上に、紙などのアナログなものに価値の揺り戻しが起きると思っています。急速なデジタル化の反動ですね。。


――いろいろと心強いメッセージをいただいてうれしいです。今日はありがとうございました。

 


 

前田裕二(まえだ・ゆうじ)
 SHOWROOM㈱代表取締役社長。1987年東京生まれ。2010年早稲田大学政治経済学部卒後、外資系投資銀行に入社。11年ニューヨークに移り北米の機関投資家を対象とするエクイティセールス業務に従事、13年DeNAに入社、仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。15年8月に事業をスピンオフ、SHOWROOM㈱を設立。ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受け合弁会社化。著書に『メモの魔力』、『人生の勝算』(いずれも幻冬舎)。