東日本大震災から7年、河北新報「防災・教育室」の取り組み

2018年3月12日
 河北新報社は、東日本大震災から丸5年が経過した2016年4月、それまで取り組んできた防災・減災に関連したプロジェクト全般を継続、推進するために、新たな専任部局「防災・教育室」を新設した。それまで兼任で対応していた防災・減災プロジェクト委員会の担当者を専任化し、既設の教育プロジェクト委員会事務局の社員らも統合し、計10人の体制でスタート。「防災」を名称に掲げて専任の部局を立ち上げるのは、全国の新聞社をみても例がなく、内外で大きな関心を呼んだ。同室の取り組みなどを紹介する。(2018年3月12日付「文化通信」本紙に掲載)

 河北新報は、11年に起こった東日本大震災で、地元の宮城県を中心に未曽有の被害と犠牲が出たことから、同年に震災前から本紙などを通じて強く呼びかけてきた防災啓発報道の成果を検証した。その結果を、地元新聞社として自らがより「狭く深く」地域に入り込み、実践的な備えを働きかける、一歩踏み込んだ新しい取り組みが必要と総括。それを具体化する形で、翌12年の5月から始まったのが、地域の小さな集まりを対象に、ワークショップ形式の語り合いの場を巡回する「むすび塾」だ。

 むすび塾は「いのちと地域を守る」との誓いを軸に、町内会や学校、職場といった小さな集まりに働きかけ、専門家と一緒に震災を振り返り、その場や地域に必要な防災策などを話し合う。教訓を掘り起こし、実践につながる備えの意識と行動を促すことが狙いだ。月1回のペースで開催され、その内容は震災月命日の11日に本紙の見開き特集紙面「防災・減災のページ」で詳報。地元のほか全国、海外(インドネシア・アチェ、チリ)でも開かれており、その開催数は18年2月の時点で通算75回にのぼっている。

 14年6月からは、このむすび塾を河北と全国の地方紙などが連携し、各地で開催する新しい形も始まった。震災被災者3~4人を伴い、共催する地方紙などの地元でむすび塾を展開。地元の小さな集まりだけにとどまらず、一般市民向けにも教訓を伝承する「東日本大震災を忘れない~被災体験を聞く会」も同時に開催する形にしている。

 18年2月までに、▽北海道新聞▽宮崎日日新聞▽京都新聞▽東京新聞▽MBS毎日放送▽高知新聞▽神戸新聞▽中日新聞▽神奈川新聞──と共催(複数回開催あり)。それぞれ現地の新聞によってその様子が詳報され、全国で震災の風化を食い止めたり、震災教訓による防災意識を刺激することにつながっている。

 そして、河北と一緒に取り組んだのをきっかけに、防災・減災の啓発を新聞報道で訴えるだけでなく、地元紙として地域により踏み込む、具体的な取り組みを始める社も出てきた。宮崎日日は宮日版のむすび塾「ソナウレ!」を始め、高知も南海トラフ警戒の防災キャンペーン「いのぐ」を展開している。

 さらに、震災から7年となった今年3月、この地方紙同士のつながりが、新たな編集企画も生んだ。むすび塾共催のつながりを生かし、各紙が震災後に進む各地の防災・減災の取り組みを報告する記事を出し合い、共通の特集紙面を作るというものだ。河北を含む共催した10社が参加し、3月11日前後に各紙が一括または数回に分けて掲載する(毎日放送はラジオ番組で放送)。

 このむすび塾も含めた防災・減災の関連プロジェクトの継続、さらなる推進を目的に16年4月に防災・教育室が新設された。武田真一防災・教育室長ら4人が「防災」のプロジェクトを、6人が「教育」のプロジェクトを担当している。

 そして、新設から1年が経った17年4月、東北福祉大学、仙台市などと協力した通年講座「311『伝える/備える』次世代塾」を新たなプロジェクトとして開始。課題である若者層への震災伝承と、防災啓発の働きかけに乗り出した。

 次世代塾は福祉大、仙台市、河北の協定3社を核に作った「311次世代塾推進協議会」が運営。河北の防災・教育室が企画、事務作業、運営労務作業を担当している。4月から翌年3月まで計15回の講座を、毎月第3土曜日を基本に実施。受講は無料。発災直後、復旧期、復興期の3段階に分けてテーマを設定し、毎回、震災被災者や支援者らの証言と訴えを聞いた後、グループワークでの対話を通して理解を深める。被災地視察もある。

 17年4月からの第1期に受講登録した大学生と社会人は116人。当初想定した定員30人の約4倍にのぼった。今年2月に14回目の講座を終え、3月17日午前に修了式と関連セッションを行って第1期が終了する。約70人が修了証を受け取る予定で、2年かけて履修する意向の受講生もいるという。修了生は「311次世代ネット」という連絡網に登録してもらい、伝承発信の交流、情報交換を継続する人たちとして蓄積していく。

 来年度の第2期も、ほぼ同様の枠組みで進める予定。定員50人で募集するが、大学ごとの説明会を開催しただけで、すでに40人以上の申し込み手続きがある。

 防災・教育室が大きな役割を担う活動は、そのほかにもある。15年3月に仙台市で開かれた国連防災世界会議をきっかけに、河北と東北大災害科学国際研究所が呼びかけ、同年4月に産学官民の連携組織「みやぎ防災・減災円卓会議」を発足。防災・教育室が事務局を務めている。40団体、80人の登録からスタートし、18年1月現在で89団体、170人が登録。宮城県内の主な大学や自治体、企業団体、NPO、報道機関などから参加している。

 そしてこの1月、円卓会議の派生組織として、宮城県内の一線記者や若手研究者、行政担当者らが参加する「みやぎ『災害とメディア』研究会」が新たに発足した。在仙の新聞社や放送局の記者・デスク45人、東北大や宮城教育大などの若手研究者12人など計63人が登録しており、災害時の情報発信や平時の防災啓発のあり方について、情報共有と意見交換を始めた。円卓会議世話人の武田防災・教育室長が、研究会の幹事役も務めている。
 
 年4回の例会を定期的な情報交換と研さんの場にする。初回の1月には、総会に合わせて被災地を視察。東松島市の震災復興伝承館や石巻市の震災伝承施設「南浜つなぐ館」を訪れ、被災した遺族らの語りに耳を傾けた。南三陸町の水産加工会社、石巻市の大川小学校の被災校舎なども視察した。