【海外エージェント特集2022】株式会社タトル・モリ エイジェンシー 75年の歴史で培った世界のネットワーク

2022年7月5日

 出版物の著作権仲介エージェントとして知られる株式会社タトル・モリ エイジェンシーは、長年、海外出版物を国内出版社に紹介してきたが、日本の出版物を海外に提供する事業にも力を入れ、世界でのマンガ市場の拡大に貢献するとともに、近年はアジアに向けた文芸書やビジネス書の輸出でも実績を出し、欧米への輸出にも取り組んでいる。

 

著作権仲介事業の専門家集団

 

長年にわたって同社が仲介した数多くのタイトル

 

 同社は太平洋戦争後にGHQ(連合国最高司令官総司令部)のコミュニケーションオフィサーとして来日したチャールズ・イー・タトル氏が、1948 年に設立したチャールズ・イー・タトル商会の著作権部として事業を開始。その後、著作権エージェント業務を担当した森武志氏が78 年に株式会社タトル・モリ エイジェンシーとして独立した。

 

 同社の特徴は営業部門や管理部門を含めて、従業員50人すべてが著作権仲介事業に関わる専門家集団である点だ。

 

 「日本に著作権仲介エージェントは100人ほどといわれています。当社は全社員が年間を通じて、100%仲介業務に携わっています」と、同社で長年にわたって著作権の輸入・輸出に携わる玉置真波取締役は述べる。

 

玉置氏

 

 創業当初から手掛ける著作権輸入業務では、現在、年間2000タイトル強の海外出版物を日本の出版社に紹介している。

 

 カナダで開催される大規模カンファレンス「TED Conference」に登壇した世界の著名な研究者や経営者の歴代トップ10人のうち7人の著作権仲介や『三体』などのベストセラーを同社が担っていることからも、輸入マーケットでの実績をうかがい知ることができる。

 

2010 年代から急増した版権輸出

 

 著作権輸出についてもすでに1970年代から手掛けてきた。当時は日本の経済発展が世界的に注目されていた時代で、夏樹静子作品や王貞治氏の著作、盛田昭夫・石原慎太郎著『ノーといえる日本』(89年)といった、欧米で興味を持たれる出版物の著作権輸出を仲介することが多かった。

 

 その後、96年に鳥山明のマンガ「ドラゴンボール」(集英社)をスペインの出版社に仲介したのを手始めに、海外で人気が高まるマンガ作品の仲介を開始。2000年代に入ると、韓国、台湾、中国といったアジア各国・地域への書籍輸出が本格的にスタート。10年代にはアジアでの急速な市場の拡大に合わせて取扱量が急増した。

 

 15年頃からは海外でもデジタルコミックの流通が始まり、20年代になるとネットフリックスなど映像配信が世界に広がり、作品の知名度が上がったことで、「この時期にマンガの輸出が45 %増になりました」(玉置氏)という。

 

 現在、同社の著作権輸出は成約数、販売額(現地での販売金額)とも右肩上がりだ。年間の輸出タイトルはマンガと書籍を合わせて4400件強と、すでに輸入点数の倍以上にのぼる。年間の輸出タイトル数が1000件を超えたのが2010年頃だったということから、この間の急増ぶりがわかる。

 

 アジアでは、マンガ以外にもジブリの絵本シリーズや関連本の人気が高いのをはじめとして、稲盛和夫氏の著作が累計約100万部、宮西達也氏の絵本が累計165万部、深見春夫氏の絵本が30タイトルで累計約500万部、やましたひでこ著『断捨離』(マガジンハウス)が中国で約250万部など大きな市場に成長している。

 

道筋整備すれば輸出増える

 

 こうした市場の広がりに伴って、海賊版問題も発生し、同社も業界団体などによる海賊版根絶の取り組みに情報提供など協力したが、一方で玉置氏は「過去に海賊版が出ていた地域でも正規ライセンス版は良く売れています。日本には良い本がたくさんありますが、輸出の面からみると自然林の中に作品が埋まっているかのように見分けにくい状態で、海外、特に欧米の出版社は見つけることが難しい。どこにどんな作品があるのか、道筋をつけるなど整備をすれば、欧米への輸出もさらに増えていくと思います。我々はそうした作品を紹介することを得意にしています」と指摘する。

 

 中国、韓国、台湾では日本語が読める編集者も多く、向こうから作品を探してくれるが、欧米にはそうしたケースは少ない。しかし、そんな環境でも同社が独占的に扱うことで、欧米をはじめ11言語にライセンスされた書籍『岩田さん』(2019年、ほぼ日) が成果を上げたほか、日本でベストセラーになったダイヤモンド社の『嫌われる勇気』(2017年) を25か国で、『幸せになる勇気』(2019年)を16か国で刊行し、世界でシリーズ累計1000万部という金字塔を打ち立てることにも貢献した。

 

多くの国で刊行される『禅、シンプル生活のすすめ』(三笠書房)など枡野俊明作品

11言語にライセンスされた『岩田さん』(ほぼ日)

 

 この背景には、長年にわたる著作権輸入によって築き上げた各国の出版社やエージェントとの深いつながりや、著作者や出版社による積極的な対応があったという。

 

ハードル越えれば版権輸出拡大は可能

 

 ただ、こうした例外的な成功を除くと、「海外の出版社にとって、日本の作品を買うのはエベレストにのぼるぐらい大変というイメージがあります」と玉置氏。

 

 その理由としては、版権取引に慣れた出版社が多い欧米に比べて、日本では検討に時間がかかるケースが散見されることが挙げられる。版権担当者、編集者、法務部など管理部門、経営層、そして著者までの合意形成にはどうしても時間がかかり、「海外の出版社に打診すると1日から1週間程度で返事がきますが、日本では場合によっては交渉から契約書を終えるまで半年~2年というケースもあります」(玉置氏)といい、翻訳出版を希望する海外出版社が、刊行スケジュールに合わず断念してしまうこともあるというのだ。

 

 また、欧米向けには見本や試訳を作らないと通じにくいが、売れるかどうかがわからない段階でこうした作業に手間とコストをかけることがリスクとみて、躊躇するケースも多いという。

 

 「もちろん準備すれば必ず売れるというわけではありませんが、やらなければ売れません。合意形成の山と、リスクの谷を乗り越えることが課題です」と玉置氏。

 

 そのためには、「本を世界に届けるためには、世界の版権市場におけるルールや常識に合わせるという発想が大切です。著者を含めた関係者のみなさまが、欧米各国と同じくらいのスピードで、著作権輸出に関する合意形成をしていただければ杭が熱いうちに商談を進めることができます。また、図版や引用などの権利をクリアにしておくこともポイントになります」と述べる。

 

 その場合に、同社は75年間仲介事業を続けてきた専門性とともに、たとえ輸出元や輸出先の出版社の担当者が交替しても継続してサポートできる点や、権利の売り込みから契約、本づくり、印税管理、送金までほぼすべての業務を担うワンストップなサービスを提供できる。

 

 「現地のエージェントや出版社は日本の本を広めようと一緒に挑戦をしているパートナーです。著作権取引は大切な企画を私たち
エージェントがお預かりさせていただき営業しますが、買い手にも優しく、関係者が全員が報われる仕組みがあれば、今後も持続的に発展することができると思います。信頼できるパートナーのネットワークと共に動けることが当社の強みです」と玉置氏は、自社のノウハウを生かして版権輸出を拡大することに意欲を示している。

 

株式会社タトル・モリ エイジェンシー
資本金:1000 万円
年間売上:約50 億円
従業員数:50 名
所在地:東京都千代田区神田神保町2 丁目17 番地 神田神保町ビル4階
海外スカウト:ロンドン・ ニューヨーク
問い合わせ:https://www.tuttlemori.com/contact_j.html

 

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