“分厚い・高額” ビジネス書が異例の売れ行き 『独学大全』(ダイヤモンド社)発売3カ月で11万部超

2020年12月14日

 総ページ数788、税込み3000円超、類書が数多あるにもかかわらず11万部超―。ダイヤモンド社が9月末に刊行した読書猿『独学大全』が2020年下半期のビジネス書ジャンルの話題を席巻している。刊行3カ月足らずで11万部(紙書籍7刷・電子含む)に到達。なぜ異例ともいえる独学本がこれほどまでの売れ行きになったのか。

 

丸善お茶の水店での展開

 

類書ない「異質」の独学本

 

 独学大全はその名のとおり独学の「百科事典」。普段は一組織人として生活する博覧強記の読書猿氏が55技法にわたり独学の手法を紹介する。

 

 単なるハウツーとしてではなく、独学の意義から説き起こし、何度も学ぶことに挫折しようとも諦めたくない人にむけた独学指南書。昨今のビジネス書ではほぼ見かけない大量の図版、イラスト、チャート、概念図、解説文が欄外に盛り込まれ、その一つ一つの密度において類書はなく、まさに「異質」の独学本といえる。

 

 編集を担当した第二編集部の田中怜子氏は、前職の出版社在籍時から多くのビジネス書を編集してきたが「経済学も経営学も知らないのにビジネス書を作っていることになんとなく後ろめたさがあった」という。そんなときに、読書猿氏の『アイデア大全』(フォレスト出版)に出会い「何冊目でもいいし何年待ってもいいから(執筆を)お願いしたい」と企画を持ち掛けた。

 

第1部冒頭に「動機付けマップ」を配置

 

 そこで読書猿氏がもっていたのは「本当に一人で独学するにはどうすれば良いのかを、網羅的、体系的かつ学問を背景にして書いている本はない」との強い問題意識だった。

 

 例えば、よくある独学本といえば、最初のパートに何を学ぶか、どのように学ぶかが置かれるのが普通だが、『独学大全』第1部は「なぜ学ぶのかに立ち返ろう」。「技法1」として「学びの動機付けマップ」が置かれている。

 

 ノウハウではなく、独学をする動機をあえてマップで書き記すことを推奨している。田中氏によると、読書猿氏は「独学で一番大事なのはハウトゥーではなく続けること。続けられる人は何が違うのか。なぜ学んでいるのか分かっている人と分かっていない人では全く続くエンジンが違う」と指摘したという。

 

分厚いことをプラスにする工夫

 

 田中氏は、著者自身がこれまでの独学本と差別化するために全体の構成を考えていたことに気づき、あえて分量を大幅に削ることをしなかった。営業部にむけても「この本を高いと思っていない人に売った方がいい。分厚いことがよい方向にいく本にしようと思っている」と伝えた。

 

 実際に2800円という本体定価についても、これまで読書猿の本を読んできたような人文書に親しみがあり、高価な本を買うことに抵抗がない読者からは逆に「安すぎる」との声もあるそうだ。

 

 この分厚い本をいかに読者に読んでもらうか。目指したのは、読者が机の上に置き独学につまづく度に開いてもらえる事典的な使い方ができること。

 

 技法を視覚的に理解できるように図版を大量に入れた。すぐに当該箇所を探せるように小口を色分けしたり、章単位で使う紙を変えたり、単語や節レベルの索引と、独学で直面する悩みから引ける索引を別々につくった。

 

1週間で完売

 

 書店営業部のサポートも増売に弾みをつけた。

 

 発売前に事前指定をつけた書店も一部あったが基本的に配本パターンは他のビジネス書と同じ。ところが発売してみると「とんでもない初動。ほぼ1週間で全国で完売した状態」(書店営業部・出口直子部長)になったことで、急遽重版体制の見直しに動いた。

 

 刊行直後からの売り上げをみると「本来なら3万部を重版できる初動だった」(出口氏)が、初動が出過ぎるとかえって追加重版や注文対応の判断が難しい。また紙の調達にも時間がかかることが予想された。

 

 そもそも「私たちも書店さんもお互い適正部数が分からない。参考にする書籍が見当たらない」状況。ゆえに配本と実売の数字をできるだけ厳密に検証し、丁寧に追加分を投入したことで、書店からのクレームも出なかったという。

 

 「毎回緊張しながらも踏み込んだ数を重版し届けられた」(同)ことが加速度的に部数を伸ばせた一因だ。

 

著者がSNSで販促活動展開

 

『週刊ダイヤモンド』新年合併特大号の特別付録を付ける

 

 プロモーションについても読書猿氏が読者の反応を丁寧に自身のツイッターアカウントでシェア。予想外に売れて書店で品切れが続出したことで、ツイッターで『独学大全』を書店で発見したら教えてほしいと投稿し、そのフォロワーの投稿も紹介した。

 

 また同書を読んで独学を始めたフォロワーがアップした画像や、小口約5センチほどの同書を他の分厚い本と比べた投稿を「『独学大全』を実践する皆さん」、「『独学大全』をいろんなものと比べた皆さん」のタグでまとめ、SNSのやり取りで情報が拡散された。

 

 主な読者層はよくビジネス書を読む30代から40代の男性ではあるが、同社ではここまで広がった理由について、仮説としながら、普段人文書を買っていたり、高い本に全く抵抗が無かったり、勉強することを厭わない人らに刺さったのではないかとみている。

 

 書店では、ブックファーストが12月21日から同書を軸にした100点以上のブックフェアを開催する。また12月21日発売の『週刊ダイヤモンド』12月26日・1月2日号新年合併特大号には、読書猿氏による書き下ろし特別付録もつけてさらなる増売を狙う。

【成相裕幸】